天皇と皇族は何が違うのか ―― 「天皇及び皇族」が意味するもの

2026-06-29

天皇と皇族は何が違うのか

「天皇陛下も、皇族のお一人ですよね?」

そう思っている方は、少なくないと思います。たしかに、普段の会話では、天皇陛下も含めて「皇室の方々」とひとくくりにしがちです。

けれど、法律のうえでは、「天皇」と「皇族」は、はっきりと区別されています。今回は、その違いを、できるだけやさしく整理してみます。この区別が分かると、いま話題の「皇族数の問題」と「皇位継承の問題」が、実は別の話だということも、見えやすくなります。


まず、皇室典範を見てみる

皇室のことを定めた法律に、皇室典範(こうしつてんぱん)があります。

この皇室典範には、「天皇及び皇族」という言い方が、くり返し出てきます。たとえば、

天皇及び皇族は、養子をすることができない。(皇室典範 第9条)

というように、「天皇」と「皇族」を、並べて書いているのです。もし「天皇も皇族の一人」なら、わざわざ「天皇及び皇族」と並べる必要はありません。並べて書く、ということ自体が、両者を区別しているしるしなのです。

では、「皇族」とは、具体的に誰を指すのでしょうか。皇室典範は、こう定めています。

皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。(皇室典範 第5条)

よく見てください。ここに、「天皇」は入っていません。皇后陛下は「皇族」に含まれるのに、天皇陛下は含まれない。つまり皇室典範は、皇族の範囲を定める第5条に天皇を含めず、「天皇及び皇族」と並べて書くことで、両者を区別しているのです。

皇室は天皇と皇族からなる


天皇とは ―― 憲法が定める「象徴」

では、天皇とは、どういう存在なのでしょうか。

天皇については、日本国憲法が、いちばん最初の条文で、こう定めています。

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。(日本国憲法 第1条)

つまり天皇は、「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」という、憲法に位置づけられた特別な存在です。皇位にある、ただお一人の方。それが天皇です。

皇族が皇室典範(法律)で定められるのに対し、天皇は、憲法という、国のいちばん基本のルールに記されている。ここにも、両者の重みの違いがあらわれています。


皇族とは ―― 皇室を構成する方々

一方、皇族とは、さきほどの第5条で範囲が定められた、皇室を構成する方々のことです(天皇を除く)。

そして、皇族のなかには、「身位(しんい)」と呼ばれる区分があります。皇室典範は、こう定めています。

嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。(皇室典範 第6条)

かみくだくと、こうなります。

  • 親王(しんのう)・内親王(ないしんのう)……天皇に近い世代(子・孫の世代)の男女。
  • 王(おう)・女王(じょおう)……それより下の世代の男女。

たとえば、悠仁親王殿下は「親王」、愛子内親王殿下・佳子内親王殿下は「内親王」という身位にあたります。

身位の区分 ―― 親王・内親王・王・女王


上皇・上皇后は、どちらなのか

ひとつ補っておきます。上皇陛下・上皇后陛下は、いまの皇室典範には出てきません。退位は、退位特例法(天皇の退位等に関する皇室典範特例法・平成29年法律第63号)という特別の法律で実現したからです。

  • 上皇……退位された天皇のことです。敬称は「陛下」。身分の登録・ご葬儀・お墓については、天皇と同じ扱いとされます。ただし、それ以外のことは「皇族の例による」とされており、身分としては皇族です。つまり、天皇に準じる特別な扱いを受けつつも、「皇族」のお一人、という位置づけです。
  • 上皇后……上皇の后(きさき)のことです。皇太后と同じ扱いとされ、敬称は「陛下」。こちらも皇族です。

まとめると、上皇陛下も上皇后陛下も「皇族」でいらっしゃいますが、上皇陛下は、天皇に準じる部分(敬称・ご葬儀・お墓)をあわせ持つ、特別なお立場、ということになります。


なぜ、区別されるのか

ここまでをまとめると、こうなります。

  • 天皇……皇位にある、ただお一人の存在。憲法が定める「象徴」。
  • 皇族……天皇を支え、皇室を構成する方々。皇室典範が範囲を定める。

そして、制度のうえでは、皇室は、天皇と皇族によって構成されていると理解できます。

皇室 = 天皇 + 皇族

天皇は皇室の中心におられますが、皇族の範囲を定める第5条には、含まれていません。天皇と皇族は、皇室典範のうえで、区別して規定されている――この整理が、いちばんの土台になります。


皇族だからといって、天皇になれるとは限らない

ここが、とても大事なところです。

「皇族なら、いずれ天皇になれる」と思われがちですが、そうではありません

現行の皇室典範は、皇位を継げるのは「皇統に属する男系の男子」だけ、と定めています(第1条)。つまり――

  • 愛子内親王殿下佳子内親王殿下……皇族でいらっしゃいますが、女性であるため、現行の皇室典範では、皇位継承の資格を持たれません
  • 悠仁親王殿下……皇族であり、かつ皇位継承の資格をお持ちです(継承順位 第2位)。

つまり、「皇族であること」と、「皇位を継げること」は、別の話なのです。すべての皇族が継承資格を持つわけではありません。

「皇族であること」と「皇位を継げること」は別


「皇族数の問題」と「皇位継承の問題」は、同じではない

この区別が分かると、いまの議論も整理して見えてきます。

2026年6月10日、衆参両院の議長が、皇族数の確保策を「立法府の総意」としてとりまとめました。 中身は2つの案で、①女性皇族が結婚後も皇室に残る案、②旧宮家の男系男子を養子に迎える案です。これを受けて、政府は6月30日、皇室典範の改正案を閣議決定しました。

ここで、この記事の「天皇と皇族の区別」が効いてきます。これらの案は、おもに「皇族の人数」を確保するための話です。実際、政府案では――

  • 案①……女性皇族ご本人は皇室に残りますが、その夫と子は皇族になりません
  • 案②……養子となった男系男子ご本人には皇位継承の資格はありません(ただしその子には資格が認められます)。

つまり、「皇族を確保する」ことと、「皇位を継げる人を確保する」ことは、イコールではないのです。

いっぽう、「皇位継承」――誰が次の天皇になるのか――は、「皇統に属する男系の男子」という、別のルールの話です。

この二つは、重なる部分もありますが、まったく同じではありません。皇族を増やしても、それがそのまま皇位継承の安定につながるとは限らない。「天皇」と「皇族」を区別して考えると、その違いが、すっきり見えてきます。


筆者の考え

ここからは、筆者の考えです。

いま、「皇族数の問題」と「皇位継承の問題」が、さかんに語られています。けれど、その手前で、もっと大事なことがあるように思います。それは、私たち日本人が、皇室のことを、きちんと知っているかということです。

実際のところ、私たちは、学校で天皇や皇室について、あまりまともに学んできませんでした。天皇と皇族の違いも、皇室典範に何が書いてあるかも、ほとんど習わないまま大人になります。

けれど、歴史的な事実と、法的な事実を押さえないままでは、「皇位継承の制度を、これからどう考えるか」という議論の、スタート地点にすら立てないのです。

だからこそ、まずは知ることから。賛成も反対も、その先の話です。この記事が、そのささやかな入り口になればと思います。


まとめ

  • 法律上、「天皇」と「皇族」は区別される。皇室典範は「天皇及び皇族」と並べて書き(第9条など)、皇族の範囲(第5条)に天皇は含まれない。
  • 天皇は、憲法第1条が定める「日本国の象徴」。皇位にある、ただお一人の存在。
  • 皇族は、皇室を構成する方々(天皇を除く)。そのなかに、親王・内親王・王・女王という「身位」がある(第6条)。
  • 制度のうえでは、皇室は天皇と皇族から成ると理解できる。天皇は皇室の中心だが、皇族の範囲を定める第5条には含まれていない。
  • 「皇族であること」と「皇位を継げること」は別。愛子内親王殿下・佳子内親王殿下は皇族だが、現行典範では継承資格を持たれない。悠仁親王殿下は継承資格者。
  • 2026年6月の「立法府の総意」と政府の改正案(皇族数確保)は、おもに皇族の人数の話。案①は夫と子が皇族にならず、案②は養子本人に継承資格がない。皇族を増やすことと、皇位を継げる人を増やすことは、必ずしも同じではない。
  • まずはこの違いを知ることが、現在の皇室制度を考える第一歩になる。