2026-07-29

女性皇族が結婚後も皇室に残ると、何が変わるのか ―― 改正①を深掘りする
2026年7月17日に成立した改正皇室典範の「2つの柱」。その一つが、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持できるようにする制度――いわゆる案①です。
旧宮家からの養子(案②)については、これまで連載で詳しく見てきました。今回は、もう一方の柱である案①を深掘りします。施行されると、何が変わるのか。そして、何が変わらないのか。
なお、本記事は2026年7月17日に成立した改正皇室典範(7月24日公布、施行は3か月後の10月24日)にもとづいています。運用の細部は、今後の政令などで定められます。
結論 ―― 「残れるようになる」。ただし、変わらないことも多い
先に、要点をまとめておきます。
- 案①によって、女性皇族は結婚後も皇族にとどまり、公務を担い続けられるようになります。婚姻による皇籍離脱を定めていた第12条が、そのまま削除されました。
- ただし、結婚した夫と、生まれたお子さまは、皇族になりません。一般国民のままです。これは今回そう決めたのではなく、第15条の原則が変わっていないからです。
- 女性皇族ご本人の皇位継承資格も、変わりません。女性天皇を認める制度ではないのです。
つまり案①は、「妻は皇族、夫と子は一般国民」という、これまでにない形の家庭を生み出す制度です。何を解決し、何を残すのか――順番に見ていきます。
今の制度 ―― 女性皇族は、結婚すると皇室を離れる
まず、現在の仕組みです。
改正前の皇室典範では、女性皇族は、天皇や皇族以外の人と結婚すると、皇族の身分を離れると定められていました(第12条)。皇族女子の結婚相手は事実上ほとんどが一般の男性ですから、結婚=皇室を離れることを意味してきました。実際、近年も結婚によって皇室を離れた方が続いています。
この仕組みが、皇族数が減り続ける大きな要因になってきました。皇室の「出口」は開いているのに、入口はきわめて狭い。とりわけ、現在の若い世代の皇族は女性が多いため、このままでは、結婚のたびに皇室が小さくなっていきます。
案①で、何が変わるのか
改正は、この仕組みを改めるものです。第12条が削除され、次のように変わりました。
- 結婚後も、皇族の身分を保持できるようになる。
- したがって、結婚後も公務を担い続けられる。地方訪問や式典への出席といった皇室の活動を、結婚を理由に手放さなくてよくなる。
- いっぽうで、結婚には皇室会議の議が必要になる。改正前の第10条は「立后及び皇族男子の婚姻は、皇室会議の議を経ることを要する」と定めていました。この「皇族男子」が「皇族」に改められ、女性皇族の結婚も皇室会議にかけられることになりました。皇族としてとどまる以上、結婚は皇室全体に関わる事柄になる――そういう整理です。
- 身分の記録も、新しい形になる。皇族には戸籍がなく、皇統譜(こうとうふ)という皇室専用の記録に登録されています。一般男性と結婚した内親王・女王は、結婚後も皇統譜に残ったまま、住民基本台帳法の適用を受けることになりました(同法第39条の改正)。皇族でありながら、一般の住民制度にも接続される――これまでにない扱いです。
- 活動を支える枠組みも、あわせて改められました。独立の生計を営む内親王・女王の皇族費が、親王・王と同額になります(改正前は二分の一に相当する額でした)。
たとえば、愛子内親王殿下や佳子内親王殿下がご結婚されても、皇族として残られる道が開かれる――そういう制度です。皇族数の減少を食い止める、一番直接的な手当てと言えます。
もう一つ、大切な点があります。経過措置です。施行のときに皇室におられる内親王・女王については、結婚のときに、従来どおり皇室を離れることも選べると定められました(附則第2条)。しかもその場合は、いま述べた結婚のための皇室会議も、皇籍を離れるための皇室会議も、どちらも要りません。ご本人の意思だけで離れられます。「残る」ことを強制するのではなく、残るか離れるかを、ご本人が選べる――この設計は、押さえておきたいところです。
何が、変わらないのか
ここからが、この記事の核心です。案①で変わらないことは、変わることと同じくらい重要です。
① 夫と子は、皇族にならない。 これは今回の改正で新たに決めたことではありません。皇室典範第15条は、皇族以外の人とその子孫は「女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない」と定めています。女性皇族の夫は「皇族男子と婚姻する場合」に当たりませんから、夫も、生まれたお子さまも、この原則によって皇族になりません。
なお第15条そのものは、今回の改正で条文が一か所だけ変わりました。養子として皇族になる場合(第38条第3項)が、例外に加えられたのです。ただし加わったのは案②の養子に関する例外だけで、女性皇族の夫と子については、これまでの原則がそのまま維持されています。
今回あらためて定められたのは、結婚した女性皇族ご本人に住民基本台帳法が適用されること(同法第39条の改正)と、婚姻・離婚の届出にともなう夫側の戸籍の扱い(戸籍関連法の改正)です。皇族になるのは、あくまで女性皇族ご本人だけ。家族は一般国民のままです。
② 皇位継承資格は、変わらない。 案①は、皇位継承の資格や順位には手をつけません。女性皇族が皇室に残っても、その方が皇位継承者になるわけではなく、女性天皇を認める制度でもありません。
③ 「女性宮家の創設」とも、イコールではない。 報道では「女性宮家」という言葉が使われることがあります。ただ、今回の改正で決まったのは、あくまで身分の保持です。独立した宮家を立てるのかどうかまでは、決まっていません。言葉のイメージで先回りせず、決まったことと決まっていないことを分けておく必要があります。

「妻は皇族、夫と子は一般国民」という新しい形
案①が施行されると、これまで存在しなかった形の家庭が生まれます。
妻は皇族として公務を担い、夫と子どもは一般国民として暮らす――同じ家庭の中に、公的な立場のまったく異なる家族が同居する形です。

この形には、考えておくべき点もあります。
- 夫の立場 ―― 一般国民のまま、皇族の配偶者として注目を浴びる。仕事や発言の自由と、妻の公的立場との間で、難しいバランスを求められる可能性があります。
- お子さまの立場 ―― 一般国民でありながら、母は皇族。教育や進路、報道との距離など、これまで前例のない環境で育つことになります。
- 警備やプライバシー ―― 家族の一部だけが皇族という形は、警備や生活の設計にも、新しい工夫が必要になります。
こうした課題は、制度が動き出してから直面するものも多いはずです。制度をつくって終わり、ではないことは、押さえておきたい点です。
なぜ、夫と子は皇族にならない設計なのか
「家族なのに、なぜ一緒に皇族にならないのか」と疑問に思う方もいるでしょう。
背景には、女系継承をめぐる議論があります。もし夫やお子さまが皇族になれば、女性皇族の子として父方が天皇につながらない皇族が生まれます。それは、男系で続いてきた皇統のあり方に関わる大きな変更につながりかねない――そうした懸念を避けるため、皇族の身分は本人限りとし、継承の問題とは切り離す設計がとられた、と説明されています。
言いかえれば、案①は「女性天皇・女系天皇を認めるかどうか」という大きな論点をあえて棚上げにして、皇族数の確保という目の前の課題に絞った制度なのです。
案①の意義と、限界
最後に、案①を改正の背景にある三つの課題に照らして整理します。
- 皇族数の減少への効果は、大きい。 結婚という「出口」を狭めるので、皇族数の減少を直接食い止められます。公務の担い手も確保されます。
- ただし、皇位継承資格者は、一人も増えない。 案①で皇室に残るのは女性皇族であり、継承資格は持ちません。継承資格者の少なさという課題には、案①は答えていないのです。
だからこそ、改正では旧宮家からの養子(案②)が、継承資格の手当てとして並んでいます。案①は「数と活動」への対応、案②は「継承」への対応。2つの柱は、役割分担の関係にあります。
筆者の考え
ここからは、筆者の考えです。
筆者は、案①は、皇族数の減少という現実に対する、現実的な第一歩だと考えています。結婚を理由に、公務に習熟した皇族が皇室を去っていく――この流れに歯止めをかけること自体は、必要なことだと思います。
同時に、忘れてはならないのは、この制度が女性皇族ご本人の人生に深く関わるということです。結婚後も皇室に残るかどうかは、ご本人の意思が最大限尊重されるべきです。その意味で、経過措置として、いま皇室におられる女性皇族方に「離れる」選択の余地が残されたことは、望ましい設計だと思います。あわせて、結婚相手となる男性やお子さまにかかる負担――報道、警備、生活の制約――への配慮も、制度と運用の両面で欠かせません。皇位継承やその周辺の制度は「権利」ではなく重い責任の話だと、これまでも書いてきました。残る側にも、支える家族にも、それは同じように当てはまります。
そしてもう一つ。案①だけでは、皇位継承の問題は解決しません。継承資格者を増やす手当て(案②)と組み合わせて、はじめて全体の設計になります。どちらか一方だけを取り出して賛否を論じるのではなく、皇室を安定して次の世代へつなぐという目的に照らして、全体として評価すること。それが、この改正への向き合い方だと筆者は考えています。
まとめ
- 案①は、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持できるようにする制度(改正前は結婚により皇室を離れた)。第12条が削除された。
- 施行後は、結婚後も公務を担い続けられ、皇族数の減少に直接の歯止めがかかる。
- いっぽうで、第10条の「皇族男子の婚姻」が「皇族の婚姻」に改められ、女性皇族の結婚にも皇室会議の議が必要になった。
- 結婚後は、皇統譜に残ったまま住民基本台帳法の適用を受ける。経過措置として、施行時に皇室におられる内親王・女王は結婚時に皇室を離れる選択も可能(このときは結婚・離脱いずれの皇室会議の議も不要)。
- ただし、夫とお子さまは皇族にならず、一般国民のまま。「妻は皇族、夫と子は一般国民」という新しい形の家庭が生まれる。
- 第15条には養子(第38条第3項)という例外が加えられたが、女性皇族の夫と子については原則が維持されている。
- 皇位継承資格は変わらない。女性天皇を認める制度ではなく、「女性宮家の創設」と決まったわけでもない。
- 夫と子を皇族にしないのは、女系継承の議論と切り離すための設計と説明されている。
- 案①は「数と活動」への対応であり、継承資格者は増えない。「継承」への対応である案②と役割分担の関係にある。
「残れるようになる」という一言の先には、新しい形の家庭と、残された課題があります。変わることと変わらないことを分けて理解することが、この制度を考える出発点になるのだと、筆者は思います。
参考・出典
参考書籍
この記事のテーマを、もっと深く知りたい方へ。
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竹田恒泰・谷田川惣/PHP研究所。女性宮家・女系天皇の論点を対談と論考で整理。



