2026-10-13

皇室典範改正で何が変わった? ―― それでも皇位継承順位は変わらなかった理由
2026年7月17日、皇室典範等の一部を改正する法律が成立しました。前回の記事では、この改正で女性天皇・女系天皇が議論の対象にならなかった理由を、政府の有識者会議の報告書にそって確認しました。今回は、その中身そのものに、もう一段踏み込みます。
改正案は、皇位継承順位に対して、実際には何をして、何をしなかったのか。 とりわけ問われるのは、新しく作られた「養子」の制度が、継承順位にどう関わるのかという点です。2026年の改正で、現在の皇位継承順位は一切変わっていません。 継承順位を定めた条文そのものにも、手は加えられていません。
新設された養子縁組の制度は、養子になった本人を皇位継承順位に加えないと、条文にはっきり書かれています。内親王・女王が結婚後も皇族の身分を保つ制度も、その方や子供に皇位継承資格を与えるものではありません。動いたのは「順位」ではなく、その手前でした。筆者は、今回の改正を「現在の皇位継承順位を維持したまま、その手前にある皇族の身分を確保する制度整備」として評価します。
そもそも「皇位継承順位」と「皇族数」は別問題
皇位継承順位とは、今、皇位が空けば誰が継ぐか、その並び順そのものです。現在は第一位が秋篠宮皇嗣殿下、第二位が悠仁親王殿下、第三位が常陸宮正仁親王殿下です。これに対して皇族数の確保とは、皇室のご活動を担う皇族が、将来にわたって何人いらっしゃるかという、人数の問題です。
この二つは、「皇室の安定」という同じ言葉で語られがちですが、条文の上ではまったく別の話です。継承順位を1ミリも動かさずに皇族数を増やす制度は作れますし、逆に、皇族数を増やさずに継承順位だけを見直すこともできます。2026年の改正がしたのは、前者だけでした。
今回の改正で何が変わったのか
改正の全体像は以前の記事で扱いましたので、要点だけを押さえます。柱は二つです。一つは、内親王・女王は、結婚しても皇族の身分を離れないのが原則になること(旧第12条・第13条の削除)。もう一つは、皇族が、旧宮家の男系男子の子孫を養子に迎えられるようになること(第38条の新設)です。法律案に付された「理由」は、こう書いています。
天皇及び皇族以外の男子と婚姻した内親王及び女王が皇族の身分を離れないこととするとともに、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王が皇室典範による皇族男子であった者の嫡男系嫡出の子孫である現に皇族でない男子を養子とすることができることとし、当該養子が皇族となることとする等の措置を講ずる必要がある。 ――皇室典範等の一部を改正する法律案(第221回国会 閣法第64号)理由
一方、皇位を継ぐ資格を定めた第1条にも、継承の順序を並べた第2条にも、改正案は一文字も手を加えていません。それぞれの条文は、次のとおりです。
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。 ――皇室典範 第1条
皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。 ――皇室典範 第2条
この法律は、まだ施行されていません。 成立は2026年7月17日、公布は同月24日でしたが、施行は公布の日から三月を経過した日、つまり2026年10月24日です。そのため、今の時点では、旧12条・13条の削除も、第38条の養子縁組の制度も、まだ効力を持っていません。施行日は、附則第1条が次のように定めています。
この法律は、公布の日から起算して三月を経過した日から施行する。 ――同法律案 附則第1条

なぜ皇位継承順位を変更しなかったのか
理由は前回の記事で見たとおりです。政府の有識者会議は、皇位継承の問題と皇族数減少の問題を「切り離して」検討すると報告書に明記し、「悠仁親王殿下までの皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」ことを理由に挙げました。その判断は、条文の作り方そのものにも、そのまま表れています。
養子案が意味するもの ―― 本人は、順位に入らない
新設された第38条には、養子になった本人についての規定と、その子孫についての規定が、はっきり分けて書かれています。まず、養子になった本人です。
養子皇族男子(前項の規定により皇族となつた皇族男子をいう。以下この条において同じ。)については、第二条の規定は、適用しない。 ――皇室典範等の一部を改正する法律案 新第38条第4項
第2条は、皇位継承順位そのものを定めた条文です。 つまり、旧宮家から養子になった本人は、皇族にはなりますが、皇位継承順位には加わりません。養子縁組が成立した瞬間に継承順位の並びが1人分動く、ということは、条文上起こらない仕組みです。身位(親王・王などの呼び名)についても、同じ考え方が取られています。
第一項の規定により養子となつた者については、これを実方の系統による嫡男系嫡出の者として第六条の規定を適用する。 ――同 第38条第5項
「実方」とは、養子に入る前の、もともとの家系のことです。天皇からの近さを測る基準は、養親の家系ではなく、本人がもともと属していた家系(旧宮家)のままだということです。一方、養子になった人に、養子縁組のあとで男の子が生まれた場合については、別の規定が置かれています。
養子皇族男子に係る第七条の規定及び第九項の規定により読み替えて適用する第十七条第二項の規定の適用並びに養子皇族男子の子孫に係る第二条及び第六条の規定の適用については、実方の系統によるものとする。 ――同 第38条第6項
この項は、養子本人についての第7条(王が皇位を継承したとき、その兄弟姉妹の王・女王を親王・内親王とする規定)と摂政の順序に関する第17条第2項の適用、そして子孫についての第2条(継承順位)と第6条(身位)の適用を、いずれも「実方の系統」――本人のもともとの家系――を基準にする、と定めています。つまり、養子になった本人は、皇族にはなっても継承順位には加わりません(第4項)。もしその方に将来、男の子が生まれれば、その子については継承順位の規定が適用されます(第6項)が、それはもとの家系をたどった位置づけです。
これは、皇位継承の資格を新しく作り出しているわけではありません。皇室典範第1条が定める「皇統に属する男系の男子」という原則は、養子縁組の前後で変わっていないからです。旧宮家の男系男子は、もともと皇統に属する家系の一員です。今回の改正が新しく作ったのは、その方を皇族の身分に迎え入れる手続き――養子縁組という入口――であって、皇位を継ぐ資格の中身そのものではありません。
言い換えれば、養子案は「継承順位を今すぐ動かす制度」ではなく、「皇族という身分を持つ人を増やし、その先の可能性を将来につなぐ制度」です。順位そのものを変えるのではなく、順位の手前を厚くするという言い方が、条文の作りに近いと思います。
女性天皇・女系天皇論との違い
女性天皇・女系天皇を認めるべきだという考え方は、皇位を継ぐ資格そのもの――皇室典範第1条の定め――を変更する考え方です。女性天皇であれば「男系の男子」という要件のうち性別の部分を、女系天皇であれば「男系」という要件そのものを、それぞれ見直すことになります。
一方、今回の養子案は、第1条の要件(男系の男子であること)はそのままに、その要件を満たす人を皇族の身分に迎え入れる手続きを新設したものです。要件そのものを変えるのか、要件を満たす人を迎え入れる入口を作るのか。この違いは、条文を読む限り、かなりはっきりしています。ただし、これは「女性天皇・女系天皇を主張する人が誤っている」という意味ではありません。皇位継承の資格そのものを見直すべきだという立場にも、理屈は成り立ちます。ここで確認したいのはあくまで、今回の改正がどちらの種類の変更にあたるのか、という一点です。
女性皇族が結婚後も皇族として残る案では、何が違うのか
もう一つの柱、内親王・女王が結婚後も皇族の身分を保つ制度についても、同じ視点で見ておきます。これは皇族数の確保にはつながります。結婚を理由に皇籍を離れる方が減るからです。けれど、皇位継承者を増やすことには、直接にはつながりません。 理由は、今回変わっていない条文の中にあります。
嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。 ――皇室典範 第6条
皇族としての身分は、父方をたどって認定される仕組みです。内親王・女王が結婚相手にかかわらず皇族のままでいられるようになっても、その配偶者(民間人男性)や、生まれてくる子は、この規定の対象になりません。
皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない。 ――皇室典範 第15条
配偶者の男性は皇族になりません。生まれてくる子についても、父方が皇統でない以上、第6条の「嫡男系嫡出」にはあたらず、皇族にはなりません。そして、内親王・女王ご本人も、女性である以上、皇室典範第1条の「男系の男子」にはあたらず、もともと皇位継承資格をお持ちではありません。
つまりこの制度は、「今いる女性皇族の人数を減らさない」効果はありますが、それだけでは新しく皇位継承資格を持つ人を1人も生み出しません。 皇族数の確保と、皇位継承者の確保は、この点で明確に別のことです。
「安定的な皇位継承」とは何か
内親王・女王が皇族として残る場合、皇族数は維持されますが、皇位継承資格者は増えません。一方、旧宮家の男系男子を養子に迎える場合は、皇族数が増えます。養子本人は継承順位に入りませんが、将来その子孫が継承順位に加わりうる、ということです。
「皇族数を増やせば、安定的な皇位継承が確保される」という言い方は、半分だけ正しく、半分は不正確です。皇室のご活動を支える人数が増えることと、皇位を継ぐ資格を持つ人が増えることは、別の効果だからです。今回の改正で皇位継承資格者が増えうるのは、養子縁組の枠組みのうち、将来生まれる子の代からにすぎません。

この整理に対する別の見方
この整理に対しては、当然、別の見方もあります。一つは、「本人が順位に入らないなら、実効性が薄いのでは」という見方です。養子本人が継承順位に加わらないなら、当面の効果は限られ、実際に意味を持つのは将来の世代を待ってから、という指摘は成り立ちます。もう一つは、「実方の系統」という基準を疑う見方です。数十年前に皇籍を離れた家系を「実方」として皇位継承の基準に持ち込むこと自体、従来の皇統のとらえ方を広げすぎているのではないか、という指摘もありえます。
三つ目が、今回の設計は妥当だという見方で、筆者はここに近い立場です。現在の継承順位を動かさずに皇族数を確保する方法として、条文の作りとしては筋が通っている、という考えです。どれも、それぞれに理屈があります。大事なのは、どの立場を取るにせよ、今回の改正が実際に条文で何をしたのかを踏まえたうえで論じることだと思います。
筆者の考え ―― 順位の手前を整える制度整備として評価する
筆者は、今回の改正を、現在の皇位継承順位を維持したまま、その手前にある皇族の身分を確保するための制度整備として評価します。「誰が皇位を継ぐか」という順位そのものを動かす議論と、「皇室というご一家を将来どう支えるか」という体制の議論は、別の問いです。今回の改正は後者に答えたものであって、前者には手をつけていません。それは、前回の記事で見たとおり、有識者会議が意図してそうしたことでした。
養子案についても、「養子縁組をすれば皇位継承者がすぐ増える」という単純な話ではありません。条文は、養子になった本人を継承順位から外し、その先の世代についてのみ実方の系統をたどって順位を適用するという、かなり慎重な作りになっています。現在いらっしゃる皇族方の位置づけを一切動かさずに、将来の可能性だけを広げるという設計だと筆者は読んでいます。
もちろん、これで皇位継承をめぐる課題がすべて解決したとは思いません。前回の記事で書いたとおり、女性天皇・女系天皇の議論は先送りされています。ただそれは、今回の改正の欠陥ではなく、今回の改正がそもそも扱わなかった問題です。その線引きは、条文そのものにも、そのまま表れています。
次回
次回は、いよいよ新連載「皇室と私たちの違い」の第1回です。私たちには当たり前にある制度が、皇室ではどうなっているのか。まずは「皇室にマイナンバーはあるのか」から見ていきます。番号が生まれる入口そのものを確かめます。
参考・出典
- 皇室典範等の一部を改正する法律案(第221回国会 閣法第64号)本文|衆議院 ―― 法律案の理由、新第38条第4項・第5項・第6項、附則第1条
- 皇室典範(昭和22年法律第3号)|e-Gov法令検索 ―― 第1条・第2条・第6条・第15条(施行前時点の現行条文)
- 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 報告(令和3年12月22日)|内閣官房
- 改正「皇室典範」を徹底解説 何が変わる?改正の経緯は? 10月24日施行|東京新聞 ―― 施行日
- 皇室典範改正の法案成立等についての会見(令和8年7月17日)|首相官邸
参考書籍
この記事のテーマを、もっと深く知りたい方へ。
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入門「女性天皇」と「女系天皇」はどう違うのか
竹田恒泰・谷田川惣/PHP研究所。女性宮家・女系天皇の論点を対談と論考で整理。



