2026-08-02

皇室典範改正で、変わったこと・変わらなかったこと ―― 女性天皇を見送った理由
今回の皇室典範改正案には、二つの改正が含まれます。女性皇族が結婚後も皇族に残れるようにする案①と、旧宮家の男系男子を養子に迎えられるようにする案②です。
ここまで読んでこられた方の多くが、こう思っているのではないでしょうか。「で、結局、女性天皇はどうなるの?」と。
結論から言えば、今回の改正は、女性天皇には踏み込んでいません。なぜか。その答えは、どの条文を変え、どの条文を変えなかったのかを見ると、はっきりします。今回は、変わったことと変わらなかったことを、条文レベルで整理します。
なお、本記事は2026年7月17日に成立した改正皇室典範(7月24日公布、施行は3か月後の2026年10月24日)にもとづいています。
結論 ―― 「数」は増やし、「根幹」は変えていない
先に、全体像をまとめます。今回の改正は、変える部分と、あえて変えない部分が、はっきり分かれています。
- 変わる条文 ―― 女性皇族の婚姻による離脱を定めた第12条(案①)と、皇族の養子を禁じた第9条(案②)。どちらも、皇族の「数」を確保するための改正です。
- 変わらない条文 ―― 皇位継承の根幹である第1条(皇統に属する男系の男子が継承する)。ここは一文字も変えていません。皇族以外の人は皇族にならないと定めた第15条も、養子のための例外が一つ足されただけで、夫と子に関わる部分はそのままです。
だから、女性皇族の夫や子は皇族にならず、養子の子(男系男子)は当然のように皇族・継承資格を持つ。現行の原則が、そのまま保たれるのです。そして、この「根幹を変えていない」ことこそが、女性天皇に踏み込まなかったことの、正体です。
変わったこと ―― 「数」を確保する二つの改正
まず、変わる部分から。今回の改正が手をつけるのは、次の二つの条文です。
案① ―― 第12条を削除する。 現行の第12条は、こう定めています。
皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる。 ――皇室典範 第12条
女性皇族は、一般の男性と結婚すると皇室を離れる、という定めです。改正法は、この条文に手を入れて書き換えたのではなく、第12条そのものを削除しました(第13条とあわせて「第十二条及び第十三条 削除」)。離れると定めた条文がなくなるので、結婚後も皇族の身分を保持することになります。
案② ―― 第9条に例外を設ける。 皇族の養子を禁じた第9条に「第三十八条第一項の規定による場合を除き」という文言を加え、旧宮家の男系男子を養子として迎えられるようにします。
ここで、迎える相手にも条件がついています。新設の第38条第1項は、皇室会議の議を経たうえで、旧皇族の嫡男系嫡出の子孫であって、年齢十五年以上、しかも配偶者及び子がないもの――つまり結婚しておらず子もいない方――に限る、と定めました。誰でも迎えられるわけではありません。
どちらも、目的は共通しています。減り続ける皇族の数を確保すること。「数」の問題への対応です。
変わらなかったこと① ―― 夫は第15条、子は第5条・第6条
ここからが、この記事の核心です。今回の改正が、あえて手をつけなかった部分があります。
その前に、条文の役割を整理しておきます。皇室典範は、二段構えになっています。
- そもそも皇族か ―― 第5条・第6条(生まれたとき)/第15条(外から入るとき)
- 皇位を継げるか ―― 第1条・第2条
この二つは、別の判定です。 皇族であっても継承権があるとは限りませんし(内親王・女王がそうです)、順番に見ていかないと話が混ざります。
そのうえで、よく言われる「妻は皇族、夫と子は一般国民」という形。夫と子では、根拠になる条文が違います。
夫の側 ―― 第15条(外から皇族に入れるか)
まず、夫のほうから。改正後の条文を、そのまま引きます。
皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合並びに第三十八条第三項の規定による場合を除いては、皇族となることがない。 ――皇室典範 第15条(2026年改正後)
これは、外にいる人が、途中から皇族に入れるかを定めた条文です。原則は「入れない」。例外は、①女性が皇后になる場合と、②皇族の男子と結婚する場合の二つでした。今回、ここに③養子として迎えられる場合(第38条第3項)が三つめとして書き加えられました。
変わったのは、この一点だけです。 案②の養子を通すために、例外を一つ足した。それ以外はそのまま残りました。
案①で皇室に残る女性皇族の夫は、「皇族以外の男子」です。彼は「皇族男子と結婚」したわけでも、養子に迎えられたわけでもないので、どの例外にもあたりません。だから、夫は皇族にならない。
子の側 ―― 第6条と第5条(生まれたときに身位がつくか)
子は、話がまったく違います。
子は、外から入ってくるのではありません。生まれた時点でどうなるか、という問題です。ここは、二つの条文が順番に働きます。
まず第6条が、身位を決めます。
嫡出の皇子及び嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とし、三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とする。 ――皇室典範 第6条
生まれた子が親王・内親王・王・女王のどれになるのか、あるいはどれにもならないのか。それを決めているのが、この条文です。基準は嫡男系――父から父へとさかのぼる血筋です。
次に第5条が、皇族の範囲を定めます。
皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。 ――皇室典範 第5条
この八つの身位を持つ人が皇族である、という定義です。裏を返せば、どの身位にも当てはまらない人は、皇族ではないということになります。
すると、こうなります。女性皇族と一般男性のあいだに生まれた子は、父をたどると一般国民に行きあたります。嫡男系でつながらないので、第6条によって親王にも内親王にも、王にも女王にもなりません。 身位がつかない以上、第5条の皇族にも入らない。だから、皇族として生まれないのです。
そして、第5条も第6条も、今回の改正はまったく触れていません。
なお、第15条も「皇族以外の者及びその子孫」と書いているので、子にも重ねて働きます。ただし、順番としては第6条・第5条が先です。 第15条だけを見ていても、「生まれたときに身位がつくのか」という答えは出てきません。
だから、女系の皇族が生まれない
これは、たいへん重要なポイントです。もし夫や子が皇族になれば、父方が天皇につながらない皇族――いわゆる女系の皇族が生まれます。
加えられた例外は、旧宮家の男系男子を迎えるためのものだけです。 女系につながる例外は、一つも加えられていません。しかも、身位を決める物差しである第6条の「嫡男系」も、そのまま残されました。その道を開かない、という選択なのです。
変わらなかったこと② ―― 第1条と第2条(皇位を継げるかどうか)
ここまでは「皇族かどうか」の話でした。次は、二段構えのもう一段。継承権があるかどうかです。
変えていない条文が、ここにも二つあります。皇位継承の、いちばんの根幹にあたります。
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。 ――皇室典範 第1条
皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。 一 皇長子 二 皇長孫 三 その他の皇長子の子孫 四 皇次子及びその子孫…… ――皇室典範 第2条第1項
役割が少し違います。第1条は「どういう血筋なら継げるか」という資格の性質を定め、第2条は「実際に誰が、どの順で並ぶか」という継承の列を定めています。皇位継承順位と呼ばれるものは、この第2条から出てきます。
皇族であることと、継承権があることは、別です。 内親王殿下・女王殿下は皇族ですが、第1条の「男系の男子」に当たらないので、第2条の列には並びません。第5条・第6条を通っても、第1条・第2条でもう一度ふるいにかけられるわけです。
今回の改正は、この二つのどちらにも、一文字も手をつけていません。
それでも、養子には第2条が働かない
ここが、この記事でいちばん面白いところだと思います。
条文は変えていない。けれど、養子ご本人には第2条が及びません。 新しく置かれた第38条が、そう書いているからです。
養子皇族男子……については、第二条の規定は、適用しない。 ――皇室典範 第38条第4項(2026年改正で新設)
第2条は「皇位は……皇族に、これを伝える」と定めた条文でした。その適用を外すということは、養子となった方は、継承の列そのものに並ばないという意味になります。ご本人に継承資格はありません。
いっぽう、その子には資格があります。 これも、条文がはっきり書いています。
養子皇族男子の子孫に係る第二条及び第六条の規定の適用については、実方の系統によるものとする。 ――同 第38条第6項
「実方(じっぽう)」とは、養子縁組の前からの実の血筋のことです。子の代からは、養親の側ではなく実家=旧宮家の系統でたどる、という意味になります。父方をたどれば旧宮家=皇統に属する男系ですから、その子は第1条の「皇統に属する男系の男子」に当てはまり、第2条の列にも並ぶことになります。
条文の本文は一字も変えず、適用の側だけを調整した。 これが、今回の改正のやり方です。第1条を変えていないから自動的にそうなる、という話ではありません。 養子ご本人を外し、子から実方でたどるとわざわざ書き足したからこそ、根幹の二か条と噛み合う。根幹を動かさずに済むように、周辺で手当てをした――そう読むのが、条文に忠実な理解だと思います。

だから、女性天皇には踏み込んでいない
ここまでを整理すると、今回の改正の「性格」が見えてきます。
- 変えたのは、第12条・第9条 ―― どちらも「皇族の数」に関わる条文。
- 変えなかったのは、第1条・第2条(誰が、どの順で継ぐか)と、第5条・第6条(誰が皇族として生まれるか)。第15条も、例外が一つ増えただけで原則はそのまま。どれも「資格・血筋・順序」に関わる、根幹の条文です。
女性天皇・女系天皇を認めるとは、まさにこの根幹(第1条・第2条、そして第6条の「嫡男系」)に手を入れることを意味します。今回の改正は、そこに一切触れていない。つまり、今回の改正は「皇族数の確保」に絞られており、「誰が皇位を継げるか」という資格の問題には、はじめから踏み込んでいないのです。
案①が「女性天皇を認める制度ではない」のも、女性天皇と女系天皇をどう考えるかという大きな議論が、依然として別のテーマとして残っているのも、すべてはこの一点――根幹の条文を変えていない――に由来します。

なぜ、踏み込まなかったのか
では、なぜ根幹に踏み込まなかったのでしょうか。
いちばんの理由は、今回の改正が「皇族数の減少」という、待ったなしの課題への対応として組まれたからです。皇位継承の資格そのもの(女性天皇・女系天皇を認めるか)は、国のかたちに関わる、さらに大きく、意見の分かれるテーマです。それを一緒に議論しようとすれば、幅広い合意を目指す今回の進め方では、まとまるものもまとまりません。
だからこそ、まず合意できる「数の確保」を先に手当てし、資格の問題は切り離した――今回の改正は、そういう組み立てになっているのです。
筆者の考え
ここからは、筆者の考えです。
今回の改正は、あくまで皇族数を確保するための案です。もちろん、その先には、女性天皇・女系天皇にも道を開くべきだという立場(リベラル・左派)と、男系継承を守るべきだという立場(保守派)の、それぞれの思惑があります。けれど、今回の法改正そのものは、女性天皇を認めるかどうかには、はじめから触れる予定のないものでした。だから、踏み込まなかったのは、むしろ当然のことだと筆者は考えています。
そのうえで、筆者が注目したいのは、「変えなかった部分」の巧みさです。
条文を並べてみると、それがよく分かります。皇族として生まれるかを決める第5条・第6条は、そのまま。誰がどの順で継ぐかを決める第1条・第2条も、そのまま。 外から皇族に入れるかを定めた第15条にも、養子のための例外を一つ足しただけで、女系につながる例外は加えていない。皇族の数を増やす仕組みだけを外から足して、判定の物差しは一つも動かさなかったわけです。
とりわけ、筆者が唸ったのは養子の扱いでした。
普通に考えれば、旧宮家から迎えた方に継承資格を与えるのがいちばん手っ取り早い。けれど、そうしていません。 第38条第4項が「第二条の規定は、適用しない」と書いて、ご本人を継承の列から外している。 そのうえで第6項が、子の代からは実方=旧宮家の系統でたどると定める。
条文の本文は一字も変えず、適用の側だけで調整している。 ここに、今回の改正の性格がいちばんよく表れていると思います。根幹に触れずに数だけを確保する――そのために、これだけ回りくどい書き方を選んだ。男系継承を重んじる考え方が、最大限に反映されていると言っていいでしょう。
もっとも、それは裏を返せば、制度がかなり込み入ったものになったということでもあります。「養子は皇族になるが、本人は継げない。その子からは継げる」――この説明を、どれだけの人がすんなり飲み込めるでしょうか。分かりやすさと引き換えに、根幹を守った。 そういう改正だったと思います。
そして、より根本的なことがあります。皇嗣であられる秋篠宮皇嗣殿下、そして悠仁親王殿下という、歴史的にも法的にも正統な継承者が、現にいらっしゃいます。その現実があるなかで、これまでのルールとは異なる別の継承のあり方を認めることは、見方を変えれば、正統な継承者を、脇へ押しやることにもなりかねません。そのような改正が、すんなり受け入れられるはずがありません。今回、女性天皇の議論に踏み込まなかったのは、政治的な駆け引き以前に、そもそも踏み込みようがなかったからだ――筆者は、そう見ています。
女性天皇・女系天皇をどう考えるかは、それ自体、別に議論すべき大きなテーマです。けれど少なくとも今回の改正は、その問いとは切り離された、「皇族数の確保」という一点のための手当てでした。まずはそのことを、正確に理解しておきたいと思います。
まとめ
- 今回の改正で変わるのは、第12条(削除)と、第9条(皇族の養子禁止に例外を追加=案②)。どちらも「皇族の数」を確保するための改正。
- 変えないのは、第1条(皇統に属する男系の男子が継承)と第2条(皇位は皇族に、この順序で伝える=継承の列)。どちらも一文字も変えていない。第15条(皇族以外の者は皇族にならない)は、養子の場合(第38条第3項)が三つめの例外として加わっただけ。
- 夫と子では、根拠の条文が違う。 夫が皇族にならないのは第15条(外から皇族に入れるかの規定。どの例外にも当たらない)。子が皇族として生まれないのは第6条(皇族の身分は嫡男系でたどる。父が一般国民なら親王にも王にもならない)+第5条(皇族の列挙)。第5条・第6条も、改正はまったく触れていない。 第15条の「その子孫」も重ねて働くが、根っこは第6条。
- 養子は、ご本人には継承資格がない。第38条第4項が「第二条の規定は、適用しない」と定め、継承の列から外しているため。その子からは資格がある(同第6項=第2条・第6条の適用を実方の系統でたどる)。
- つまり、根幹の条文(第1条・第2条)の本文は一字も変えず、適用の側だけを調整した。第1条を変えていないから自動的にそうなるのではない。
- 女性天皇・女系天皇を認めることは、この根幹(第1条など)に手を入れること。今回の改正はそこに触れておらず、「皇族数の確保」に絞られている。
- 資格の問題は、意見が大きく分かれる別次元のテーマとして、切り離された。
「何が変わり、何が変わらなかったのか」。条文の一つひとつを見ていくと、今回の改正が、どこまでの改正で、どこから先は手つかずなのかが、くっきりと見えてきます。
参考・出典
- 皇室典範(昭和22年法律第3号)第1条・第2条・第5条・第6条・第9条・第12条・第15条|e-Gov法令検索 ―― 改正部分の反映は2026年10月24日の施行後
- 皇室典範等の一部を改正する法律案(第221回国会 閣法第64号)本文|衆議院 ―― 第9条・第12条・第15条の改正、第38条(養子皇族男子)の新設
- 改正皇室典範を公布、10月24日施行 女性皇籍保持と旧宮家の養子|日本経済新聞(2026年7月24日)
参考書籍
この記事のテーマを、もっと深く知りたい方へ。
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門田隆将・竹田恒泰/ビジネス社。女系継承のリスクを対談形式で。



