2026-08-01

旧宮家の養子案は、どう機能するのか

旧宮家の養子案は、どう機能するのか ―― 養親・養子・継承のしくみ

旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎える案(案②)。改正の、二つめの柱です。

前回は、「そもそも皇族は養子を迎えられない」という原則(皇室典範第9条)を確認しました。案②は、その原則に例外を設けるものです。では、その例外は、実際にはどう機能するのでしょうか

「誰が養子として迎えるのか」「養子になった人は皇位を継ぐのか」――意外と知られていない、案②の具体的なしくみを、2026年7月に成立した改正皇室典範にそって読み解きます。

なお、本記事は2026年7月17日に成立した改正皇室典範(7月24日公布、施行は3か月後の2026年10月24日)にもとづいています。


結論 ―― 迎えるのは傍系の宮家、継ぐのは「子の代」から

先に、しくみの要点をまとめておきます。

  • 手続き ―― 縁組には、皇室会議の議が必要。当事者だけで決められる話ではありません。
  • 養親(迎える側) ―― 親王・親王妃・内親王・王・王妃・女王。皇嗣(秋篠宮皇嗣殿下)とそのお妃は除かれ、天皇・上皇のご夫妻も養親にはなりません。実際上は、傍系の宮家が受け入れ先として想定されています。
  • 養子 ―― 旧11宮家の男系男子で、配偶者と子のない15歳以上の方。
  • 継承資格 ―― 養子となったご本人には皇位継承資格がなく、その方のお子さま(男子)の代から継承資格を持つ

「養子になった人が皇位継承者になる」わけではない――ここが、いちばん誤解されやすいところです。順番に見ていきましょう。


おさらい ―― 案②とは何か

まず、案②の位置づけを短く確認します。

現在の皇室典範は、皇族が養子を迎えることを禁じています(第9条)。案②は、この禁止に例外を設け、1947年に皇室を離れた旧11宮家の子孫である男系男子にかぎって、皇族の養子となる道を開くものです。

目的は、皇位を継げる男系男子が少なくなっているという課題への対応です。皇籍を取得するとはどういうことか何が変わるのかは、それぞれの記事で扱いました。今回は、その「入口」の手続き――養子縁組そのもののしくみに焦点をあてます。


① 誰が「養親」になるのか

まず、意外と知られていないのが、迎える側の話です。

改正で新しく加えられた第38条第1項が、養親になれる皇族の範囲を、こう定めています。

親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王(皇嗣及び皇嗣妃を除く。)は、皇室会議の議を経て、この法律による皇族男子であつた者の嫡男系嫡出の子孫である現に皇族でない年齢十五年以上の男子であつて、配偶者及び子がないものに限り、養子とすることができる。 ――改正後の皇室典範 第38条第1項

養親になれるのは、親王・親王妃・内親王・王・王妃・女王です。そして、ここが重要なのですが、皇嗣(こうし)とそのお妃は、この範囲から除かれます。今でいえば、皇嗣であられる秋篠宮皇嗣殿下とそのお妃です。天皇・皇后両陛下、上皇・上皇后両陛下も、そもそもこの列挙に入っていないので、養親にはなりません。

つまり、養親になるのは、皇位継承の中心のライン(天皇・皇嗣)から外れた、傍系の宮家ということになります。報道では、実際の受け入れ先となりうる宮家として、常陸宮家・寛仁親王妃家・三笠宮家・高円宮家の四つが挙げられています。条文が養親に「親王妃」「王妃」を含めているため、寛仁親王妃殿下のようにお一人で宮家を担っておられる妃殿下も養親になりえる、という読み方です。

なぜ、直系を外すのでしょうか。皇位継承の中心となる天皇・皇嗣のご一家に養子が入ると、直系の継承の秩序に、直接影響が及びかねません。それを避け、継承の本流から少し離れたところで、皇族の層を補う――そうした配慮がうかがえます。

そしてもう一つ、条文には「皇室会議の議を経て」と書かれています。皇室会議は、議員10人で組織されます。内訳は、皇族2人、衆議院と参議院の議長・副議長、内閣総理大臣、宮内庁の長(宮内庁長官)、最高裁判所長官とその他の裁判官1人です(皇室典範第28条)。議長は内閣総理大臣がつとめます(第29条)。つまり、養子を迎えるかどうかは、宮家のご当主が決められる話ではありません。 立法・行政・司法の代表が加わった場で議決されて、はじめて縁組が成立します。皇族の数という、国のかたちに関わる決定だからです。

誰が養親になるのか ―― 迎えるのは傍系の宮家


② 養子になるのは、どんな人か

次に、迎えられる側です。

条文は、養子となれる人を「この法律による皇族男子であつた者の嫡男系嫡出の子孫」と書いています。「この法律による皇族男子であつた者」とは、1947年に現在の皇室典範が施行されたときに皇族男子だった方々――つまり、そのとき皇室を離れた旧11宮家の男子です。その方々の子孫、というわけです。

ここで見落とされやすいのが、「嫡男系嫡出」という言葉です。「嫡男系」は父方をたどるという意味(男系)ですが、「嫡出」は、法律上の婚姻から生まれたお子さまであることを指します。父方をさかのぼる代のすべてで、この条件を満たしている必要があります。 ふだん「旧11宮家の男系男子」と呼ばれている範囲より、条文の要件はやや狭いのです。

そのうえで、条件が二つ加わります。

  • 配偶者と子のない
  • 15歳以上の方(条文では「年齢十五年以上」)

「15歳以上」という線引きには、理由があります。民法では、15歳未満の子を養子にする場合、本人に代わって法定代理人が承諾すると定められています(第797条)。15歳以上とすることで、ご本人の意思にもとづく養子縁組とする趣旨だと説明されています。「配偶者と子のない」という条件も、すでに家庭を築いている方を、家族ごと巻き込むことを避けるためと考えられます。

なお条文は、未成年者を養子にするには家庭裁判所の許可が要るという民法第798条を、この縁組には適用しないと定めています(第38条第2項)。皇室典範のほうに皇室会議という別の手続きが置かれているためだと考えられますが、条文はその理由までは書いていません。

そして、旧宮家に該当する男系男子が現在何人おられるのかは、一般国民のプライバシーに関わるため公表されていません。「対象者は○人」と確定的に語れる状況ではないことも、あわせて押さえておきたい点です。

養子となった方は、一般国民から皇族へと身分が変わり戸籍を離れて皇統譜に登録されることになります。


③ 皇位継承は、どう動くのか

案②で、いちばん誤解されやすいのが、この継承資格の扱いです。

改正は、こう定めています。

  • 養子となったご本人には、皇位継承資格を与えない。
  • その方のお子さま(男子)の代から、皇位継承資格を持つ。

条文の書きぶりは、少し変わっています。皇位継承の順序を定めているのは第2条ですが、第38条第4項は、「養子皇族男子については、第2条の規定は、適用しない」と書きました。つまり、資格を「与えない」と正面から否定するのではなく、順序を決める条文を、そもそも当てはめないという形をとっています。

そのうえで第6項が、お子さま以降については「実方(さねかた)の系統によるものとする」として、第2条を適用しています。「実方」とは、養子縁組でできた親子関係ではなく、実の血筋のほうという意味です。養親の家系を継いだから継承資格がある、のではありません。ご本人が旧宮家の男系男子だから、そのお子さまに資格がある――そういう組み立てです。

なぜ、本人ではなく子の代からなのでしょうか。ここには、前回見た養子禁止の趣旨――「養子で継承順位を人為的に動かさない」という考え方が、生きています。長く一般国民として過ごしてきた方が、養子になった瞬間に皇位継承者となる、という形は避ける。そのうえで、皇室で生まれ育つ次の世代(子)から、男系継承の担い手を確保するという設計です。

その根底にあるのが、皇室典範第1条です。

皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。 ――皇室典範 第1条

養子縁組で皇族となった方のお子さまも、父方をたどれば旧宮家=皇統に属する男系です。だから、その男子は「皇統に属する男系の男子」として、継承資格を持ちうる――という理屈になります。「実方の系統による」という但し書きは、この第1条の筋を守るために置かれている、と読むことができます。

養子案の継承のしくみ ―― 本人ではなく「子の代」から


なぜ、こういう設計なのか

ここまでのしくみを、ひとことで言えば、「養子禁止という原則の趣旨を、できるだけ壊さないように組まれている」ということです。

  • 直系(天皇・皇嗣)を養親から外す → 直系の継承秩序を乱さない。
  • 本人に継承資格を与えない(第2条を適用しない) → 養子で継承順位を人為的に動かさない。
  • 子孫の継承は「実方の系統による」 → 養親の家系ではなく、実の血筋で判断する。
  • 対象を旧11宮家の男系男子(条文では「嫡男系嫡出の子孫」)に限る → 皇統に属さない人を皇位に近づけない。
  • 縁組に皇室会議の議を要する → 皇族の側だけの判断で人数を増やさない。

養子が禁止されてきた三つの理由を、一つずつ避けながら、皇族の層だけを補おうとしている――そういう、慎重な組み立てになっているのです。


残る論点

もちろん、この案には、批判や論点もあります。冷静に押さえておきます。

  • 「門地による差別」との関係 ―― 憲法第14条は、生まれ(門地)による差別を禁じています。特定の家系(旧宮家)の男系男子だけを対象とすることが、これに反するのではないか、という指摘があります。これに対しては、皇位継承は憲法が認めた世襲の制度であり、一般の平等原則とは次元が異なる、という反論もあります。
  • 本人の人生とプライバシー ―― 対象となりうる方は、今は一般国民です。制度ができても、実際に養子になるかどうかは本人の意思しだいであり、報道や注目にさらされる負担への配慮が欠かせません。
  • 入ったあと、出る道が狭い ―― これはあまり知られていませんが、条文は「養子皇族男子である王については、第11条第1項の規定は、適用しない」と定めています(第38条第7項)。第11条第1項は、15歳以上の内親王・王・女王が自分の意思にもとづいて皇族の身分を離れる道です。第6条は「三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王とする」と定めており、旧11宮家の子孫は実方の系統で数えると天皇から三世以下にあたりますから、条文上は「王」です。つまり、養子として皇族になった方には、この道が用意されていません。残るのは第11条第2項の「やむを得ない特別の事由があるとき」だけです。皇族の数を確保するための制度なので、簡単に抜けられては意味がない――そういう理屈は分かります。ただ、入るのは本人の意思、出るのは本人の意思だけでは足りない、という形になっていることは、押さえておきたい点です。
  • 「国民の理解」 ―― この案が国民の理解を得られるかは、法案審議でも焦点となりました。

しくみを正しく知ったうえで、これらの論点をどう考えるか。そこが、次のステップです。


筆者の考え

ここからは、筆者の考えです。

案②のしくみを見て、「養子となった本人ではなく、その子の代から皇位継承権が与えられる」という点に、拒否反応を示す人がいます。けれど筆者は、ここにこそ、この制度の本質があると考えています。

思い出したいのは、そもそも「宮家」とは何かということです。宮家は、本流の跡継ぎが絶えたときのための、「万が一の保険」として置かれてきました。今は、皇嗣であられる秋篠宮皇嗣殿下、そして悠仁親王殿下がいらっしゃいます。通常の流れで、悠仁親王殿下に男子がお生まれになれば、皇統はこれまでどおり、自然につながっていきます。養子案は、その流れを否定するものではありません。

案②とは、何十年、何百年先に、万が一のことがあったときのための「転ばぬ先の杖」を、今のうちに用意しておく――そういう手当てだと、筆者は理解しています。使われずに済むなら、それがいちばんよい。けれど、いざというときに備えがなければ、皇統そのものが途切れてしまう。だから、今のうちに手を打っておくのです。

この「保険」という性格が分かっていれば、「旧宮家は六百年も前に分かれた、遠すぎる」という批判は、的を外していると筆者は感じます。宮家とは、何百年先の危機に備えるための存在です。裏を返せば、宮家は長く続いてこそ、その役割を果たせる。歴史が長いほど、「万が一の備え」としての価値は、むしろ増していく。六百年という長さは、遠さの証しではなく、備えとしての厚みなのだ――筆者はそう考えています。

もちろん、これは「養子で一人増やせば解決」という単純な話ではありません。案②は、案①(女性皇族の身分保持)と組み合わされ、皇室を将来にわたって安定して維持できるかという、大きな問いの一部です。しくみと、その底にある考え方を正しく理解すること。それが、この議論を地に足のついたものにする、第一歩だと筆者は思います。


まとめ

  • 案②は、養子禁止(第9条)に例外を設け、旧11宮家の男系男子を皇族の養子にできるようにするもの。
  • 養親になれるのは親王・親王妃・内親王・王・王妃・女王で、皇嗣ご夫妻は除く。天皇・上皇ご夫妻も養親にならない。報道では受け入れ先となりうる宮家として常陸宮家・寛仁親王妃家・三笠宮家・高円宮家の四つが挙げられている(条文が養親に「親王妃」「王妃」を含めているため、妃殿下も養親になりうる)。
  • 縁組には皇室会議の議が必要。宮家のご当主だけで決められる話ではない。未成年者の養子縁組に要る家庭裁判所の許可(民法第798条)は、代わりに適用されない。
  • 養子となるのは、旧11宮家の男系男子で、配偶者と子のない15歳以上の方。ただし条文の言葉は「嫡男系嫡出の子孫」で、父方をさかのぼる代のすべてが嫡出である必要があり、ふだん言う「男系男子」より要件はやや狭い。
  • 養子となった本人には、皇位継承の順序を定める第2条が適用されない。その子(男子)以降は「実方の系統による」として第2条が適用され、継承資格を持つ。養親の家系ではなく、実の血筋で判断する組み立て(皇室典範第1条)。
  • 全体として、養子禁止の趣旨(直系の秩序・皇統の血筋・人為的操作の防止)を壊さないよう、慎重に組まれている。
  • 一方で、門地差別との関係、本人・子の人生への配慮、国民の理解といった論点が残る。養子となった方には、自分の意思で皇族の身分を離れる道(第11条第1項)が用意されていない。

「誰が迎え、誰が皇位を継ぐのか」。このしくみを正しく知ることが、案②の是非を落ち着いて考える出発点になるのだと思います。


参考・出典