2026-10-10

皇室典範が改正されたのに、なぜ女性天皇・女系天皇は認められなかったのか
2026年7月17日、皇室典範等の一部を改正する法律が成立しました。そのあと、こういう声を目にした方もいると思います。「せっかく皇室典範を改正したのに、なぜ女性天皇を認めなかったのか」「女系天皇の議論は排除されたのではないか」。 ここで、一度立ち止まりたいと思います。今回の改正は、そもそも何を変えるための議論だったのでしょうか。 皇族の数を確保するための議論と、皇位を継ぐ資格そのものを変える議論は、同じものなのでしょうか。その答えは、改正の条文と、政府の一次資料の中にあります。
2026年の改正の柱は、内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することと、皇族の養子縁組を可能にすることの二つでした。どちらも皇族の数を確保するための方策で、皇位を継ぐ資格や順位には手を触れていません。そして、これは言わずに済ませたことではありません。政府の有識者会議は報告書に、「まずは、皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題であります」とはっきり書いています。
理由も書かれています。悠仁親王殿下までの皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないこと、そして次代以降を今議論するのは「機が熟しておらず」であること、というものです。したがって筆者は、「女性天皇・女系天皇を議論から排除した」という批判は、議論の対象を取り違えていると考えます。ただしそれは、将来議論してはならない、という意味ではありません。
2026年、皇室典範はどう変わったのか
まず事実から確認します。改正の全体像は別の記事で扱いましたので、要点だけを押さえます。法律案に付された「理由」は、こうです。
天皇及び皇族以外の男子と婚姻した内親王及び女王が皇族の身分を離れないこととするとともに、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王が皇室典範による皇族男子であった者の嫡男系嫡出の子孫である現に皇族でない男子を養子とすることができることとし、当該養子が皇族となることとする等の措置を講ずる必要がある。 ――皇室典範等の一部を改正する法律案(第221回国会 閣法第64号)
柱は二つです。一つは、内親王・女王は、結婚しても皇族のままでいられること(旧第12条の削除)。もう一つは、皇族が、旧宮家の男系男子を養子に迎えられること(第38条の新設)です。そして、この法律の見直し規定には、目的が端的に表れています。
前項の規定により検討が加えられるに当たっては、皇族の数の確保の状況等を勘案し、必要があると認められるときは、三十年ごとに見直しが行われるものとする。 ――同法 附則第6条第2項
「皇族の数の確保」。法律そのものが、そう書いています。一方、皇位継承の資格を定めた条文は、動いていません。次に引く第1条は、改正前と同じです。
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。 ――皇室典範 第1条

課題は、もともと二つあった
ここは正確に押さえておく必要があります。「皇位継承はそもそも課題ではなかった」というのは、正しくありません。 2017年(平成29年)、天皇の退位等に関する皇室典範特例法案が国会で可決される際、衆参両院で附帯決議が付けられました。そこで政府に求められたのは、こういう課題です。
「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等」について、政府は検討を行い、その結果を国会に報告することとされています。 ――「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 報告(令和3年12月22日)
皇位継承も、課題として挙げられていました。 政府は検討を行い、その結果を国会に報告することとされており、これを受けて設置された有識者会議は、報告書の冒頭でこう整理しています。
附帯決議で示された課題は、皇位継承の問題と皇族数の減少の問題の二つであります。 ――同報告
有識者会議は「切り離す」と書いた
課題は二つあり、会議は、この二つを分けて扱うという判断をしました。皇位継承の問題と皇族数の減少の問題は、別々の課題として整理されたということです。報告書の該当箇所を、そのまま引きます。
そのためには、まずは、皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題であります。これについては、様々な方策を今のうちに考えておかなければなりません。 ――同報告
「切り離して」。この一語が、今回の改正の性格を決めています。そして会議は、皇族数を確保する方策として三つを挙げました。2026年に法制化されたのは、このうち①と②で、三つの内容は次のとおりです。
①内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することとすること ②皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること ③皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とすること ――同報告
この二案については、以前くわしく扱いました。つまり今回の改正は、報告書が示した「皇族数の確保」の枠のなかで行われたものです。皇位継承のルールは、はじめから枠の外にありました。
なぜ「切り離した」のか
では、なぜ分けたのか。その理由も報告書に書かれています。まず有識者ヒアリングの結果があり、そのうえで会議自身の判断が示されています。
ヒアリングの中では、皇位継承のルールについて悠仁親王殿下までは変えるべきでないとの意見がほとんどを占め、現時点において直ちに変更すべきとの意見は一つのみでありました。 ――同報告
会議としては、今上陛下、秋篠宮皇嗣殿下、次世代の皇位継承資格者として悠仁親王殿下がいらっしゃることを前提に、この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないということで一致しました。悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承について具体的に議論するには現状は機が熟しておらず、かえって皇位継承を不安定化させるとも考えられます。 ――同報告
ここに、今回の改正の骨格があります。現在の皇位継承順位は、第一位が秋篠宮皇嗣殿下、第二位が悠仁親王殿下、第三位が常陸宮正仁親王殿下です。この流れが実際に動いているなかで、継承資格の定義そのものを変えれば、今順位にある方々の位置づけをどうするのかという問題を避けて通れません。
ただし、「女性天皇・女系天皇を議論することは、悠仁親王殿下の継承資格を否定することだ」と言いたいのではありません。 そこは断定できませんし、するべきでもありません。正確に言えば、こうです。現在の継承順位を保ったまま、女性天皇や女系天皇をどう制度に組み込むのか。この論点を避けたまま議論を進めることはできない。 報告書が「機が熟していない」と書いたのは、そういう意味だと筆者は読んでいます。

女性天皇と女系天皇は、別の話
女性天皇は、女性が天皇になることです。過去に8方10代の例があります。女系天皇は、父方をたどっても皇統に行き着かない天皇のことで、過去に例はありません。男系は、父方をたどると必ず天皇に行き着く筋のことです。過去の女性天皇は、全員が男系でした。女性天皇がいたことと、女系天皇がいたことは、別の事実です。「男系」と「女系」は、そもそも対になる言葉でもありません。この二つを一つにまとめてしまうと、議論そのものが成り立たなくなります。皇室がなぜ男系を重んじてきたのかという歴史の話とも、切り離して考える必要があります。
「議論されなかった」という批判を検証する
「今回の改正で女性天皇・女系天皇が議論されなかったのはおかしい」という主張には、二つの読み方があります。一つ目は、「今回の法改正で同時に決めるべきだった」という主張。 これは、報告書が示した枠組みと噛み合いません。今回の法改正は、皇族数の確保という枠のなかで進んだものです。その枠の外にある論点が入っていないことを「排除された」と呼ぶのは、議論の対象を取り違えていると筆者は考えます。
二つ目は、「そもそも切り離すという判断自体が間違いだった」という主張。 こちらは、成り立つ批判です。附帯決議は「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」も課題として挙げていたのですから、「なぜ皇位継承のほうを先送りにしたのか」と問うことはできます。
ただしその場合、批判の相手は2026年の法改正ではなく、令和3年の有識者会議の判断ということになります。「機が熟していない」という理由に納得できるか。悠仁親王殿下がいらっしゃる状況をどう考えるか。議論するなら、そこが焦点です。「議論されなかった」と言う前に、「そもそも今回の議論のテーマだったのか」を確かめる。 筆者が言いたいのは、その一点です。
「女性天皇に賛成7割」をどう読むか
NHK放送文化研究所の「皇室に関する意識調査」(2019年)では、女性天皇を認めることに賛成が73.6%、女系天皇を認めることに賛成が70.6%でした。どちらも約7割です。一方、同じ調査で「女系」天皇の意味を知っていると答えた人は、41.5%にとどまりました。報告を書いたNHKの研究員自身が、「制度については十分に理解されていない実態も明らかになった」と記しています。 「女性天皇に賛成する人が多い」ことと、「女系天皇への制度変更について国民的な理解ができている」ことは、同じではありません。 世論の数字は、議論を始める理由にはなります。けれど、議論を終わらせる根拠にはなりません。
これは「先送り」なのか
先送りかどうかで言えば、先送りです。報告書自身が、そう書いています。悠仁親王殿下の次代以降の皇位継承を巡って、報告書が述べているのは次のことです。
悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承については、将来において悠仁親王殿下の御年齢や御結婚等をめぐる状況を踏まえた上で議論を深めていくべきではないかと考えます。 ――同報告
「議論しない」ではなく、「時期を待って議論を深める」と書かれています。そして今回の法律にも、見直しの規定が置かれました。皇族の数の確保の状況等を勘案して、三十年ごとに見直しが行われる(附則第6条第2項)。制度は、ここで止まったわけではありません。
この整理に対する別の見方
この整理に対しては、当然、別の見方があります。一つは、「切り離し」自体が結論の先取りだという見方です。皇族数の確保策として女性皇族が皇室に残るなら、その方々の子供の立場をどうするのかは、いずれ必ず問われる。切り離せると考えること自体が無理ではないか、というものです。もう一つは、時間がないという見方です。制度の議論には年単位の時間がかかる。「機が熟すのを待つ」うちに、選択肢が狭まってしまうのではないか、というものです。三つ目が、今回の判断は妥当だったという見方で、筆者はここに近い立場です。現に継承順位にある方々がいらっしゃるなかで資格の定義を動かせば、皇位継承はかえって不安定になる。まず数を確保するという順序には理がある、という考えです。
どれも、それぞれに筋が通っています。大事なのは、どの立場を取るにせよ、「今回の改正は何のための改正だったのか」を踏まえたうえで論じることだと思います。
筆者の考え ―― 批判の前に、議論のテーマを確かめたい
筆者は、今回の改正で女性天皇・女系天皇が認められなかったことを、問題だとは考えていません。 今回の議論の中心は皇族数の確保であって、皇位継承のルールそのものを変えることではなかったからです。そしてそれは、誰かが黙って外したのではなく、報告書に「切り離して」と明記されたうえでの判断でした。
「皇室典範が改正された」という一点だけを取り上げて、「なぜ女性天皇・女系天皇を認めなかったのか」と批判するのは、今回何を改正するための議論だったのかを見ていないように思います。もちろん、女性天皇・女系天皇を今後議論すること自体を否定するつもりはありません。むしろ、いずれ必ず向き合うことになる論点だと考えています。
ただし、議論するのであれば、皇位継承そのものを正面からテーマに据えるべきです。皇位継承の歴史、男系と女系の違い、女性天皇と女系天皇の違い、旧十一宮家の経緯、そして現在の継承順位。そこまで含めて議論する覚悟がないまま、皇族数の議論のついでに扱うのは、一番避けるべきやり方だと思います。「議論されなかった」ことを批判する前に、「そもそも今回の議論のテーマだったのか」を確かめる。順序としては、そちらが先ではないでしょうか。
次回
次回は、「皇室典範改正で何が変わった? ―― それでも皇位継承順位は変わらなかった理由」。今回の改正で実際に何が変わり、何が変わらなかったのか。皇位継承順位と皇族数の確保がどう別の問題なのかを、条文にそって見ていきます。
参考・出典
- 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 報告(令和3年12月22日)|内閣官房 ―― 「皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題」「この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならない」「機が熟しておらず」「将来において……議論を深めていくべき」/皇族数確保の三方策
- 皇室典範等の一部を改正する法律案(第221回国会 閣法第64号)本文|衆議院 ―― 法律案の理由、附則第6条第2項
- 皇室典範(昭和22年法律第3号)第1条|e-Gov法令検索
- 皇室典範改正の法案成立等についての会見(令和8年7月17日)|首相官邸
- 新時代の皇室観 ―「皇室に関する意識調査」から(荒牧央)|NHK放送文化研究所『放送研究と調査』70巻3号 ―― 女性天皇賛成73.6%/女系天皇賛成70.6%/「女系」の意味を知っている41.5%



