2026-09-26

「皇位継承は既に確定している」は正しいのか ―― 高市首相の投稿を、条文と報告書で確かめる
2026年9月5日、高市早苗首相がX(旧ツイッター)に長い投稿をしました。
7月に成立した皇室典範改正法について、「女性天皇への道を閉ざした」という批判が出ていることを受けて、改正の目的を説明したものです。その中の一文が、議論を呼んでいます。
最初にご説明しなければならないのは、秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下までの皇位継承は、これまでの儀式(立皇嗣の礼)や『皇室典範』により、既に確定しているということです。 ――高市早苗首相のX投稿(2026年9月5日)
この投稿は、9月22日時点で750万回以上表示されています。皇室研究者からは反論も出ました。
では、どこまでが事実で、どこからが評価なのか。条文と報告書で確かめます。
先に結論を書きます。
改正の経緯についての説明は、政府の有識者会議の報告書に書かれているとおりです。 争点は、そこではありません。「確定」という言葉が、どこまでを指すのかという一点です。
まず、投稿は何を言っているのか
長い投稿ですが、骨組みは三つです。
① 悠仁親王殿下までの継承は「既に確定している」
先に引用したとおりです。根拠として、立皇嗣の礼と皇室典範を挙げています。
② 今回の改正は「皇族数の確保」が目的で、女性天皇は論点に含まれていない
お声をいただいている「女性天皇を認めるかどうか」は、「皇位継承のあり方」に関する論点であり、今回の『皇室典範』の改正目的である「皇族数の確保」には含まれていない論点です。
③ それは政府が独断で決めたのではなく、有識者会議と立法府の方針に従ったものだ
投稿は、令和3年(2021年)に設置された有識者会議の議論を4点挙げ、それを受けた国会の「議論のとりまとめ」に従ったと説明しています。

② と ③ は、報告書に書いてあるとおり
まず、確かめやすいところから。
投稿が挙げた有識者会議の議論を、報告書の原文と突き合わせます。報告書は首相官邸(内閣官房)のサイトで公開されています。
会議としては、今上陛下、秋篠宮皇嗣殿下、次世代の皇位継承資格者として悠仁親王殿下がいらっしゃることを前提に、この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないということで一致しました。悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承について具体的に議論するには現状は機が熟しておらず、かえって皇位継承を不安定化させるとも考えられます。 ――「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 報告(令和3年12月22日)
以上を踏まえると、悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承については、将来において悠仁親王殿下の御年齢や御結婚等をめぐる状況を踏まえた上で議論を深めていくべきではないかと考えます。 ――同
まずは、皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題であります。 ――同
投稿の4点は、報告書の記述をほぼそのままなぞっています。 言い換えの範囲であって、内容を足したり引いたりしていません。
つまり、②「今回の改正で女性天皇は論点ではなかった」と、③「それは有識者会議と立法府の方針だった」は、資料で裏づけられる説明です。
なお報告書は、皇族数を確保する方策として二つを挙げました。内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することと、養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とすること。これが2026年の改正の二つの柱になりました。
「確定している」は、何を指しているのか
問題は①です。
皇室典範を読む
皇位を継ぐ資格は、第1条です。
皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する。 ――皇室典範 第1条
順序は、第2条です。
皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。 一 皇長子 二 皇長孫 三 その他の皇長子の子孫 四 皇次子及びその子孫 五 その他の皇子孫 六 皇兄弟及びその子孫 七 皇伯叔父及びその子孫 ――皇室典範 第2条第1項
この条文に当てはめると、今上陛下に皇子がいらっしゃらないため、順序は第6号「皇兄弟及びその子孫」に進みます。弟である秋篠宮皇嗣殿下が第1位、その第1皇男子である悠仁親王殿下が第2位です。
ここまでは、条文からそのまま出てきます。 現行法が変わらない限り、この順序は動きません。
立皇嗣の礼は、何をした儀式か
投稿は、もう一つの根拠として立皇嗣の礼を挙げています。2020年11月8日に行われた儀式です。そのとき、天皇陛下はこう述べられました。
本日ここに、立皇嗣宣明の儀を行い、皇室典範の定めるところにより文仁親王が皇嗣であることを、広く内外に宣明します。 ――立皇嗣宣明の儀の天皇陛下のおことば(令和2年11月8日)
注目したいのは、「皇室典範の定めるところにより」という部分です。儀式が皇嗣の地位を作ったのではなく、法律で定まっていることを、広く示したという構文になっています。

反論は、どこを突いているのか
この投稿に対し、神道学者で皇室研究者の高森明勅氏が反論しています(『女性自身』2026年9月22日配信)。
報じられている主張は、おおむね次の三つです。
- 皇嗣と皇太子は違う ―― 「次の天皇として即位することが確定している皇太子とは違って、傍系の皇嗣は暫定的な立場に過ぎず」、儀式を行っても継承が確定することにはならない
- 典範を改正すれば順位は変わる ―― 女性天皇を認めれば、第2条の順序によって敬宮愛子内親王殿下が第1位になる。だから「典範により既に確定している」とは言えない
- 「確定」と「ゆるがせにしてはならない」は矛盾する ―― 確定しているなら、そう言う必要がない
三つ目は、言葉の使い方への指摘です。「確定している」は事実の説明、「ゆるがせにしてはならない」は価値判断であり、二つを並べると座りが悪い、という趣旨でしょう。
事実として言えること、言えないこと
整理します。
言えること
- 現行の皇室典範のもとで、皇位継承の順序は定まっている。秋篠宮皇嗣殿下が第1位、悠仁親王殿下が第2位
- 今回の改正は、この順序に手を触れていない。第1条も第2条も、一文字も変わっていない
- 女性天皇の是非は、2021年の有識者会議が意識的に切り離した論点である
言えないこと
- 将来にわたって変わらない、とまでは言えません。 皇室典範は法律であり、国会が改正できます。現に2026年7月、国会は改正しました
- しかも改正法は、見直し規定を置いています。投稿自身が、最後にこう書いています
なお、『皇室典範改正法』では、附則第6条に見直し規定を設けており、改正後の法律の施行の状況を踏まえて、必要な検討や見直しがなされることとされています。
条文では、こうなっています。
この法律による改正後のそれぞれの法律の規定については、その施行の状況を踏まえて所要の検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。 ――皇室典範等の一部を改正する法律 附則第6条第1項

つまり「今の法律が変わらない限り確定している」なら正確で、「未来永劫、動かない」なら正確ではない、ということになります。投稿全体を読むと、前者の意味で書かれているように読めます。
「愛子天皇」の道は、いま開いているのか
ここも、はっきりさせておきます。
現行の皇室典範のもとでは、開いていません。 第1条が「皇統に属する男系の男子」と定めているからです。女性が即位する仕組みそのものが、条文にありません。
2026年の改正でも、第1条には手が入りませんでした。なぜ今、皇室典範の改正が必要だったのかという記事で見たとおり、今回の課題は皇族の数のほうでした。ですから、「今回の改正で道が閉ざされた」という言い方も、正確ではありません。もともと開いていなかった道が、今回も開かれなかったというのが、条文どおりの説明です。
ただし、過去に議論がなかったわけではありません。2005年の有識者会議は、女性天皇・女系天皇を認める方向の報告をまとめています。その後、悠仁親王殿下のご誕生などを経て、法案は提出されませんでした。
「議論されたことがない」のではなく、「2021年の会議は、あえて議論しないと決めた」。 これが正確な言い方です。
別の見方
- 直系を優先すべきだという考え方があります。高森氏の主張もこの立場で、第2条の順序は直系長子を先にしているのだから、女性天皇を認めれば敬宮愛子内親王殿下が第1位になる、という読み方です
- 皇族数の確保が先だという立場もあります。有識者会議が取ったのはこの立場でした。継承資格の議論を先にすると、かえって不安定になるという考え方です
- 世論調査では、女性天皇を認めることに賛成する回答が多数を占めるという報道が続いています。一方で、質問の文言によって数字が動くことも知られています
筆者の考え
高市首相の投稿は、今回の改正について説明したものとしては、正確だと考えます。
報告書と突き合わせれば分かるとおり、女性天皇の是非は今回の改正の論点ではありませんでした。それを「首相が道を閉ざした」と言うのは、経緯に合いません。
そして、現行法のもとで皇位継承順位が定まっていること、悠仁親王殿下が第2位であることも、条文どおりの事実です。ここに疑いの余地はありません。
そのうえで、二つ書いておきます。
一つ目。 「確定」という言葉は、慎重に扱ったほうがよいと思います。法律は国会が変えられます。今回の改正が現にそうでしたし、附則第6条の見直し規定も置かれました。今の法律のもとでは動かない、という意味で使うほうが、誤解を生みません。
二つ目。 「過去に女性天皇がいたのだから、今も認めてよい」という論の立て方には、慎重でありたいと思います。過去の女性天皇は8人10代。いずれも男系であり、天皇である間に結婚した方は一人もいません(元正天皇はなぜ結婚しなかったのかほかで扱いました)。いま議論されている女性天皇は、結婚し、子もある天皇を想定しています。過去の例と、形が違います。
ただし、逆向きの断定も避けたいところです。過去の女性天皇が独身を通した理由は、史料に書かれていません。「昔はこうだったから、今もこうあるべきだ」という論法は、賛成側にも反対側にも使えてしまいます。
制度を変えるかどうかは、最後は国民が決めることです。その判断の材料は、誰かの主張ではなく、条文と公的な記録であってほしいと思います。
結論
高市首相の投稿のうち、改正の目的と経緯についての説明は、有識者会議の報告書に書かれているとおりでした。
「皇位継承は既に確定している」という部分は、現行の皇室典範が変わらない限りという条件つきで、正確です。第1条と第2条から、秋篠宮皇嗣殿下が第1位、悠仁親王殿下が第2位という順序が出てきます。立皇嗣の礼は、その法律上の地位を広く示した儀式でした。
一方、法律である以上、国会が改めることはできます。改正法自身が見直し規定を置いています。「確定」を「未来永劫」の意味に取れば、正確ではなくなります。
争点は、事実の有無ではなく、言葉がどこまでを指すかにありました。
参考・出典
- 高市早苗首相のX投稿(2026年9月5日) ―― 「秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下までの皇位継承は、これまでの儀式(立皇嗣の礼)や『皇室典範』により、既に確定しているということです」「『女性天皇を認めるかどうか』は……今回の『皇室典範』の改正目的である『皇族数の確保』には含まれていない論点です」「附則第6条に見直し規定を設けており」
- 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 報告(令和3年12月22日)|内閣官房 ―― 「この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないということで一致しました」「現状は機が熟しておらず」「皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題であります」、皇族数確保の二つの方策
- 立皇嗣宣明の儀の天皇陛下のおことば(令和2年11月8日)|宮内庁 ―― 「皇室典範の定めるところにより文仁親王が皇嗣であることを、広く内外に宣明します」
- 皇室典範(昭和22年法律第3号)第1条・第2条|e-Gov法令検索
- 皇室典範等の一部を改正する法律案(第221回国会 閣法第64号)本文|衆議院 ―― 附則第6条(見直し規定)
- 皇位継承|宮内庁 ―― 資格と順序
- 高市早苗首相 "私的X"での「皇位継承は既に確定」投稿に皇室研究者が反論「直系の重視が当然」|女性自身(2026年9月22日配信) ―― 高森明勅氏の反論。「傍系の皇嗣は暫定的な立場に過ぎず」「確定しているなら、『してはならない』と言う必要はありません」



