天皇陛下は何をお考えだったのか ―― 「国民の理解が得られるものに」を読む
2026-06-27

2026年6月、天皇陛下が、皇位継承をめぐる議論について、あるお言葉を述べられました。
「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」。
短いお言葉ですが、さまざまに取り上げられ、なかには「陛下は女性天皇を望んでおられるのではないか」とまで読む向きもありました。
はたして、このお言葉から、どこまでが「分かる」のでしょうか。そして、どこからは「分からない」のでしょうか。今回は、お言葉を、できるだけ素直に読んでみたいと思います。
まず、事実 ―― 何とおっしゃったのか
事実から確認します。
2026年6月11日、天皇陛下は、オランダ・ベルギーへのご訪問を前にした記者会見にのぞまれました。その少し前、6月10日には、衆参両院の議長が、皇族数の確保策を「立法府の総意」としてとりまとめていました。
その流れを受けて、陛下は、皇族数の確保をめぐる議論について、お言葉を述べられました。まず「制度にかかわる事項は控えたい」とされたうえで、皇室の活動は国際親善のほか被災地のお見舞いなど多岐にわたると触れられ、「皇室の在り方や活動の基本は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすること」とされたうえで、皇族数の確保をめぐる議論についても「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」と述べられました。
ここで大事なのは、二つです。①「国民の理解」を望んでおられること。そして、②制度にかかわる事項(どの案がよいか)には、触れないとされたこと。

なぜ、注目されたのか
背景には、長く続く「皇族数の確保」の議論があります。
いま示されている案は、大きく二つ。女性皇族が結婚後も皇室に残る案と、旧宮家の男系男子を養子に迎える案です。この二つをめぐって、与野党や世論の意見は分かれています。
この2案は、6月10日に衆参両院の正副議長が「立法府の総意」としてまとめ、いずれも「了」とされたものです。案①は女性皇族が結婚後も皇族の身分を保つ形(配偶者と子は皇族とせず、住民基本台帳法を適用)、案②は旧十一宮家の子孫で妻子のいない「15歳以上」の男系男子を養子に迎える形で、あわせて30年ごとの見直し規定も置かれました。
そんな最中の、陛下のお言葉です。注目が集まるのも、自然なことでした。問題は、その受け止め方です。
お言葉から「分かること」
まず、お言葉から、はっきりと「分かること」を挙げます。
- 陛下が、「国民の理解」を、とても重んじておられること。
- 皇室の基本を「常に国民の幸福を願い、国民と喜びや悲しみを分かち合う」ことに置いておられること。
- そして、特定の制度案の良し悪しには、触れておられないこと。
ここまでは、お言葉のとおりです。読み込みも、推測も要りません。
お言葉から「分からないこと」
ここが、いちばん大事なところです。お言葉からは、分からないことが、たくさんあります。
- 陛下が、どの案を支持しておられるのか。
- 「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する」案に、賛成なのか、反対なのか。
- 「旧宮家の男系男子を養子に迎える」案に、賛成なのか、反対なのか。
これらは、一切、分かりません。なぜなら、陛下は、それらについて何もおっしゃっていないからです。

そして、これは偶然ではありません。日本国憲法第4条は、「天皇は、国政に関する権能を有しない」と定めています。天皇は、政治的なご発言で政策を左右することを、憲法上、控えるお立場なのです。だからこそ、陛下は特定の案への賛否を、述べられない。述べておられないのです。
別の見方
もちろん、別の読み方をする人もいます。
一部の報道や論者は、「国民の理解」という言葉を、「国民の人気」や「世論の支持」と結びつけます。そして、世論調査で支持の高い女性天皇・愛子天皇待望論を、あたかも陛下も望んでおられるかのように解釈することがあります。
「国民が支持しているものを、陛下も願っておられる。だから陛下は、女性天皇に前向きなのだ」――という読み方です。
一見、もっともらしく聞こえます。けれど、本当にそう言えるのでしょうか。
筆者の考え
ここからは、筆者の考えです。
結論から言えば、その読み方は、幾重もの「飛躍」を重ねている、と筆者は思います。
「国民の理解」は、「国民の人気」ではありません。そして「人気」は、「女性天皇」とイコールではありません。「理解」→「人気」→「女性天皇」と、言葉を二度も三度も置きかえて、ようやくたどりつく解釈です。これは、お言葉を素直に読んだものとは、とても言えません。
そもそも、考えてみてください。「国民の理解が得られるものに」――これは、至極当然のことではないでしょうか。国民の理解が得られないものを、陛下が望まれるはずがありません。当たり前のことを、当たり前におっしゃった。それ以上でも、それ以下でもないと思うのです。
そして、ここがいちばん大切なのですが――陛下のお言葉の「裏」を邪推することは、本来、たいへん恐れ多いことです。先ほど見たように、陛下は憲法上、特定の立場を述べられないお方です。その沈黙の部分に、勝手に政治的な意図を読み込むのは、お立場を軽んじることにもなりかねません。お言葉は、お言葉のとおりに受け取る。 それが、筋だと思います。

メディアの「印象操作」に、思うこと
もう一点、筆者がどうしても言っておきたいことがあります。
一部のメディアやコメンテーターは、この短いお言葉を手がかりに、あたかも「陛下は、いまの立法府の案を、望んでおられない」かのような印象を作り出し、そこに自分の主張を重ねていきます。「陛下は本当は女性天皇(愛子天皇)を望んでおられる。だから旧宮家の男系男子を養子に、という案は、陛下のお心に反している」――そうした筋立てを、しばしば目にします。
けれど、もう一度確認しましょう。陛下は、「制度にかかわる事項は控えたい」と、はっきり述べておられます。どの案がよいとも、どの案がだめだとも、一言もおっしゃっていない。にもかかわらず、その沈黙を「陛下は◯◯を望んでおられる(望んでおられない)」と読みかえ、特定の案への賛否の"後ろ盾"として陛下を持ち出すのは、憲法が定めた天皇のお立場を、政治に利用することにほかなりません。
これは、右か左か、賛成か反対か、という話ではありません。どちらの立場であっても、自分の思想を通すために陛下のお言葉を利用することは、慎むべきだ――そう筆者は考えます。政治的に中立であるべき天皇を、どちらの陣営であっても、自陣に引き込もうとしてはならない。ここは、超えてはいけない一線だと思うのです。
お言葉は、お言葉のとおりに。その先を邪推せず、静かに受けとめる。それが、陛下のお立場を重んじる、いちばん誠実な態度なのではないでしょうか。
私たちが、すべきこと
そのうえで、筆者はこう考えます。
陛下が「国民の理解が得られるものに」と願っておられるのなら、私たちのすべきことは、はっきりしています。
ひとつは、政治の責任です。国民がきちんと理解できるよう、それぞれの案の意味を、ていねいに説明すること。「数合わせ」で押し通すのではなく、皇統の重みをふまえて議論すること。
もうひとつは、私たち国民の責任です。皇室の歴史や、男系継承という伝統が、なぜ二千年も守られてきたのか。それを、少しでも学ぼうとすること。
その二つがそろってはじめて、「国民の理解」は深まります。そしてそれこそが、陛下のお望みに、まっすぐにおこたえすることなのだと、筆者は考えます。
まとめ
- 2026年6月11日、天皇陛下は訪欧前の会見で、皇族数確保の議論について「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」と述べられた。「制度にかかわる事項は控えたい」とされ、中身には触れておられない。前日6月10日には、衆参両院の正副議長が案①(女性皇族の婚後残留)・案②(旧宮家の養子)を「立法府の総意」としてまとめていた。
- お言葉から分かるのは「国民の理解を重んじておられる」ことまで。どの案を支持か、女性皇族案・旧宮家案への賛否は、一切分からない(陛下は何もおっしゃっていない)。
- 憲法第4条で、天皇は国政に関する権能を持たないお立場。だから特定の案への賛否を述べられない。沈黙に政治的意図を読み込むのは筋違い。
- 「国民の理解」→「人気」→「女性天皇」という読みは、二重三重の飛躍。お言葉はそのまま受け取るべきで、裏を邪推するのは恐れ多い。
- 賛成・反対どちらの立場であれ、自分の思想を通すために陛下のお言葉を政治利用するのは慎むべき。中立であるべき天皇を、自陣に引き込もうとしてはならない。
- 筆者は、陛下のお望みにこたえる道は二つと考える。政治は各案をていねいに説明すること、国民は皇室の歴史・伝統を学ぶこと。



