2026-08-04

連載「皇室の基礎知識第2回(全12回)

皇室会議とは何か

皇室会議とは何か ―― 皇位継承でどんな役割を果たすのか

「皇室会議が開かれる」――ニュースで、そう報じられることがあります。

けれど、この「皇室会議」という言葉を、「皇室典範改正を決める会議のことだろう」と受け取っている人も、少なくありません。じつは、これは大きな誤解です。

この記事では、皇室会議とはどのような機関で、誰が参加し、何を決めるのかを整理します。連載「皇室の基礎知識」の第2回、前回の「皇室典範とは何か」に続くテーマです。


皇室会議とは何か

皇室会議とは、皇室典範にもとづいて設けられた機関で、皇室に関する一定の重要事項を審議・議決する役割を持ちます。

大切なのは、これが常に開かれている機関ではないという点です。皇室会議は、必要な事項が生じたときにだけ招集される、いわば「臨時の合議機関」です。普段は開かれていません。

そして、この会議には皇室典範で決められた事項だけを扱う、という枠があります。何でも自由に決められる場ではないのです。


皇室会議の構成員 ―― 議員10人

皇室会議は、議員10人で組織されます(皇室典範第28条)。その顔ぶれは、次のとおりです。

  • 成年皇族 2人(皇族の互選による)
  • 衆議院議長・衆議院副議長
  • 参議院議長・参議院副議長
  • 内閣総理大臣
  • 宮内庁長官
  • 最高裁判所長官
  • 最高裁判所のその他の裁判官 1人

そして、この会議の議長を務めるのは、内閣総理大臣です(第29条)。また、議員に事故があるときに備えて、同じ数の予備議員10人も置かれています。

皇室会議の10人 ―― 三権と皇室が関わる

顔ぶれを見て、気づくことがあります。皇族だけではないのです。国会(立法)から議長・副議長、内閣(行政)から総理大臣、裁判所(司法)から最高裁の裁判官。立法・行政・司法・皇室のすべてが関わる構成になっています。

これは、偶然ではありません。皇室に関する重要な事柄を、皇室だけでも、政府だけでも決めない。国の三権と皇室が、いっしょに関わって慎重に判断する。そういう考え方が、この構成に込められています。


皇室会議は、何を決めるのか

では、皇室会議は具体的に何を審議するのでしょうか。皇室典範が定める主な事項には、たとえば次のようなものがあります。

  • 皇位継承の順序に関する一定の事項 ―― 重大な事故があるときに、継承の順序を変更する場合など
  • 皇族男子の婚姻
  • 皇族が、その身分を離れる場合(皇籍の離脱に関する一定の事項)
  • 摂政を置くこと、摂政の順序を変えること

いずれも、皇室典範に「皇室会議の議(ぎ)を経る」と定められている事柄です。つまり皇室会議は、皇室典範が「ここは皇室会議で判断する」と決めた事項だけを扱います。

2026年の改正で、役割が二つ加わった

2026年7月17日に成立した改正皇室典範で、皇室会議が判断する事柄が増えました。

① 旧宮家の男系男子を養子に迎えるとき。 皇族の養子を禁じてきた第9条に例外が設けられ、旧宮家の男系男子を養子として迎えられるようになりました。このとき、皇室会議の議を経ることが要件とされています。誰でも、いつでも迎えられるわけではないのです。

② 女性皇族が婚姻するとき。 婚姻による皇籍離脱を定めていた第12条が削除され、女性皇族は結婚後も皇族にとどまることになりました。あわせて、女性皇族の婚姻についても、原則として皇室会議の議を経ることになりました(第10条)。

なお、施行のときに皇族である内親王・女王が、婚姻と同時に皇室を離れることを選ぶ場合は、皇室会議の議は不要とされています(附則第2条)。ご本人の意思を尊重するための経過措置です。


最大のポイント ―― 皇室会議と国会は、役割が違う

ここが、この記事で一番伝えたいところです。

冒頭で触れた「皇室会議=皇室典範改正を決める会議」という理解は、間違いです。皇室会議には、皇室典範そのものを改正する権限はありません

皇室典範は「法律」ですから、それを改正できるのは、前回見たとおり、国会だけです。両者の役割は、はっきり分かれています。

皇室会議 国会
役割 皇室典範にもとづき、個別の案件を審議・議決 皇室典範そのものを制定・改正する
性格 現行の制度を運用する機関 法律をつくる立法機関

皇室会議と国会 ―― 「運用」と「改正」の違い

かんたんに言えば、国会が「ルールそのもの(皇室典範)」をつくり、皇室会議は「そのルールにもとづいて個別のことを判断する」。役割の階層が違うのです。2026年の皇室典範改正も、決めたのは皇室会議ではなく、国会でした。


皇室会議は、実際にいつ開かれるのか

皇室会議が開かれる機会は、きわめて少ないのが実情です。皇室典範で定められた特定の事項が生じたときにだけ招集されるため、何年も開かれないことも珍しくありません。

近年でよく知られているのは、2017年(平成29年)12月に開かれた皇室会議です。このときは、天皇の退位等に関する皇室典範特例法にもとづき、上皇陛下の退位の日程が議題となりました。

ここは、少していねいに見ておきたいところです。特例法は、退位の日を定める政令について、「内閣総理大臣は、あらかじめ、皇室会議の意見を聴かなければならない」と定めていました(附則第1条第2項)。つまり、日を決めたのは政令であって、皇室会議はその前に意見を述べる立場だったのです。この手続きを経て、退位の日は2019年4月30日と定められ、翌5月1日に今上陛下がご即位になりました。

「皇室会議が退位の日を決めた」と語られることもありますが、条文にそくして言えば、少し違います。

このように、皇室会議は「日常的に皇室を動かす機関」ではなく、節目に慎重な判断を下すための機関だと理解すると、その性格がよく分かります。


なぜ、皇室会議という制度があるのか

最後に、なぜこうした制度が置かれているのかを考えてみます。

皇室に関する重要事項を、皇室だけで決めるのでもなく、政府だけで決めるのでもない。立法・行政・司法、そして皇室が関わることで、一つの立場に偏らず、慎重に判断する。そのための仕組みが、皇室会議です。

皇位継承や皇族の身分は、国のかたちに関わる重い事柄です。だからこそ、多くの立場が関わる合議の形がとられている――そう考えると、この制度の意味が見えてきます。


筆者の考え

ここからは、筆者の考えです。

筆者は、皇室会議という制度は、日本の皇室制度の特徴をよく表している仕組みだと思います。

皇室だけで決めるのでもなく、政府だけで決めるのでもない。立法・行政・司法、そして皇室が関わることで、重要事項を慎重に判断する。皇位継承や皇室制度が、日本の歴史や伝統に深く関わるものであることを考えれば、一つの立場だけで結論を出さないこの形には、大きな意味があると感じます。

そして、2026年の改正で、この会議が担う役割はさらに重くなりました。旧宮家の男系男子を養子として迎えるかどうかも、皇室会議の議を経ることになったからです。

この点について、筆者は楽観しています。というより、恣意的に養子が選ばれるようなことはない、と断言したい。

理由は、顔ぶれです。判断するのは、成年皇族お二方、内閣総理大臣、衆参両院の議長と副議長、最高裁判所長官とその他の裁判官お一人、そして宮内庁長官。立法・行政・司法の各長と、皇室ご自身です。国会の議長・副議長が入る以上、与党だけでは決められません。裁判所の長が入る以上、法の筋を外れた判断は通りません。そして何より、皇族方ご自身がその場におられる

誰かが自分に近い人物を送り込もうとしても、この十人の合議を通すことはできないでしょう。皇統に人為を入り込ませないという、養子禁止に込められてきた考え方は、例外が開かれたあとも、この手続きによって守られている――筆者はそう受け止めています。

そして、繰り返しになりますが、「皇室会議が皇室典範改正を決める」という誤解は、今も少なくありません。制度を正しく理解することが、皇室をめぐる議論を冷静に考える第一歩になるのではないでしょうか。


まとめ

  • 皇室会議は、皇室典範で定められた重要事項を審議・議決する機関。常設ではなく、必要なときだけ開かれる。
  • 議員は10人。成年皇族2人、衆参の議長・副議長、内閣総理大臣、宮内庁長官、最高裁長官とその他の裁判官1人。議長は内閣総理大臣。
  • 立法・行政・司法・皇室が関わり、一つの立場に偏らない慎重な判断を担う。
  • 皇室典範そのものを改正する権限はない。改正するのは国会。
  • 2026年の改正で役割が二つ増えた。旧宮家の男系男子を養子に迎えるとき(第9条の例外)と、女性皇族が婚姻するとき(第10条)は、皇室会議の議を経る。
  • 近年では2017年12月に開かれた。ただし退位の日を定めたのは政令で、皇室会議はその前に意見を述べる立場だった(特例法附則第1条第2項)。退位は2019年4月30日、ご即位は5月1日。

「皇室会議=皇室典範改正を決める会議」ではない――この一点を押さえるだけでも、ニュースの見え方が変わります。


参考・出典