2026-08-11

連載「皇室の基礎知識第9回(全12回)

即位礼とは何か

即位礼とは何か ―― 新しい天皇が即位するまでの流れ

天皇の代替わりでは、多くの儀式が行われます。「即位礼」「剣璽等承継の儀」「即位礼正殿の儀」――ニュースには、いくつもの名前が並びます。

このため、「即位礼」を一つの儀式だと思っている人も少なくありません。じつは、そうではないのです。

この記事では、皇位継承から即位礼、そして大嘗祭までの流れを、令和の代替わりを例に整理します。連載「皇室の基礎知識」の第9回です。


皇位継承は、どのように始まるのか

まず、出発点を確認します。皇位の継承は、天皇の崩御(ほうぎょ)、または譲位(じょうい)によって始まります。

大切なのは、皇位は空位にならないということです。条文は、こう定めています。

天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。 ――皇室典範 第4条

「直ちに」。位が途切れる瞬間はない、というのが基本の考え方です。

令和の代替わりは、上皇陛下のご譲位によるものでした。皇室典範に退位の規定はないため、このときは特別な法律が作られています。

天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位する。 ――天皇の退位等に関する皇室典範特例法 第2条

崩御であれ譲位であれ、「直ちに」という言葉は変わりません。2019年4月30日にご退位、翌5月1日に今上陛下がご即位になりました。そして、この日から、即位に関わる一連の儀式が始まります。


法律が定めているのは、一行だけ

ここで、意外なことを一つ。

これから見ていく儀式の数々について、法律が書いているのは、たった一行です

皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う。 ――皇室典範 第24条

これだけです。19文字。どんな儀式を、いつ、どこで、どのように行うのか――条文は何も定めていません。

では、あの一連の儀式はどこから来たのか。答えは、皇室に受け継がれてきた慣例と、そのつど閣議決定で決められる段取りです。法律は「即位の礼を行う」とだけ言い、中身は伝統と運用に委ねられている。この形を頭に置いたうえで、実際の流れを見ていきましょう。


① 剣璽等承継の儀

即位して最初に行われるのが、剣璽等承継の儀(けんじとうしょうけいのぎ)です。令和では、2019年5月1日に行われました。

ここで承継されるのが、三種の神器のうちの剣と璽(じ=勾玉)、そして国璽・御璽(こくじ・ぎょじ)です。国璽・御璽は、国や天皇の公式な印にあたります。皇位のしるしを受け継ぐ、即位後、最初の重要な儀式です。


② 即位後朝見の儀

同じ日に行われたのが、即位後朝見(そくいごちょうけん)の儀です。

これは、新しい天皇が、即位して初めて、国民の代表に会われ、お言葉を述べられる儀式です。三権の長など国の代表が参列するなかで、天皇が最初のお言葉を述べられます。


③ 即位礼正殿の儀

一連の儀式のなかでも、とくに広く知られているのが、即位礼正殿(せいでん)の儀です。令和では、2019年10月22日に行われました。

これは、天皇が即位を国内外に宣明(せんめい)する、国の重要な儀式です。天皇は高御座(たかみくら)にのぼり、即位を宣言されます。この儀式には、外国の元首や王族、各国の代表が数多く参列しました。

「即位礼」という言葉は、この即位礼正殿の儀を中心とした一連の儀式を指して使われることが多いものです。


④ 祝賀御列の儀

即位礼正殿の儀にあわせて予定されていたのが、祝賀御列(しゅくがおんれつ)の儀、いわゆる祝賀パレードです。

令和では、当初10月22日に予定されていましたが、台風による大きな被害を受け、被災地への配慮から延期され、11月10日に行われました。ここで押さえておきたいのは、祝賀御列の儀は、必ず行われる儀式というわけではないという点です。その時々の事情によって、日程や実施が判断されます。


⑤ 即位礼と大嘗祭は、何が違うのか

一連の流れの締めくくりとして行われるのが、大嘗祭(だいじょうさい)です。令和では、2019年11月14日から15日にかけて行われました。

ここで、読者が最も混同しやすい点を整理します。「即位礼」と「大嘗祭」は、役割がまったく違うのです。

即位礼 大嘗祭
性格 国家の儀式 皇室の祭祀
目的 即位を国内外へ宣言する 即位後、最初に行う新嘗祭
向き 国民・海外への公的な儀式 皇祖神へ奉告する祭祀

大嘗祭については、その意味や歴史を、次回の「大嘗祭とは何か」で詳しく扱います。ここでは、「即位礼と大嘗祭は別のもの」という点を押さえてください。

皇位継承から大嘗祭まで ―― 即位の流れ


よくある誤解

誤解されやすい点を、整理します。

  • 「即位礼=大嘗祭」 ―― 違います。即位礼は国家の儀式、大嘗祭は皇室の祭祀です。
  • 「剣璽等承継の儀=即位礼」 ―― 剣璽等承継の儀は、即位に関わる儀式の一つ。即位礼と同じではありません。
  • 「即位礼は一日だけ」 ―― 即位は、複数の儀式が数か月にわたって続く一連の流れです。

筆者の考え

ここからは、筆者の考えです。

筆者は、即位礼は単なる式典ではなく、日本という国が、新しい天皇の即位を国内外へ正式に示す、大切な国家儀式だと思います。

令和の即位礼では、世界の多くの国や地域から元首や王族が参列しました。日本の皇室が、世界から特別な敬意を受けていることを、あらためて感じた方も多かったのではないでしょうか。

また、「即位礼」と「大嘗祭」が混同されることも少なくありませんが、それぞれ目的も性格も異なる、重要な儀式です。一つ一つの意味を知ることで、日本の皇位継承が、長い歴史のなかでていねいに受け継がれてきたことが、より深く理解できると筆者は考えています。


まとめ

  • 即位は、一つの儀式ではなく、複数の重要な儀式で構成される。
  • 🔴 法律が定めているのは「皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う」の一行だけ(皇室典範第24条)。中身は慣例と閣議決定に委ねられている。
  • 皇位は空位にならない。崩御でも譲位でも、皇嗣が「直ちに」即位する(第4条/特例法第2条)。
  • 剣璽等承継の儀(神器の承継)→ 即位後朝見の儀(最初のお言葉)→ 即位礼正殿の儀(即位の宣明)→ 祝賀御列の儀(パレード)→ 大嘗祭、という流れ。
  • 即位礼正殿の儀では、天皇が高御座にのぼり、即位を国内外に宣言する。
  • 祝賀御列の儀は必ず行われるわけではなく、令和では台風被害を受けて延期された。
  • 即位礼(国家の儀式)と大嘗祭(皇室の祭祀)は、役割がまったく違う。

一連の儀式を知ると、日本の皇位継承の奥深さが見えてきます。


参考・出典