2026-08-10

三種の神器とは何か ―― 皇位継承との深い関係
「三種の神器(さんしゅのしんき)」という言葉は、よく耳にします。けれど、それが何を指し、なぜ皇位継承に欠かせないのかを説明できる人は、多くありません。
この記事では、三種の神器とは何かを、神話・歴史・現在の制度をていねいに区別しながら整理します。連載「皇室の基礎知識」の第8回です。
三種の神器とは
三種の神器(さんしゅのしんき)とは、次の三つを指します。
- 八咫鏡(やたのかがみ) ―― 鏡
- 草薙剣(くさなぎのつるぎ) ―― 剣
- 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま) ―― 勾玉(まがたま)
鏡・剣・勾玉。この三つが、古くから皇位のしるしとして受け継がれてきました。まとめて「三種の神器」と呼ばれます。
三種の神器は、どこから来たのか
三種の神器の由来は、日本神話にあります。
『古事記』や『日本書紀』に伝わる神話では、太陽の神とされる天照大御神(あまてらすおおみかみ)が、地上を治めさせるために孫の瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)を遣わす際(天孫降臨〈てんそんこうりん〉)、この三つの宝を授けた、と語られます。
ここで、はっきりさせておきたいことがあります。これは「神話」です。歴史的な事実として検証されたものではありません。ただし、神話であることと、その神器が長く皇位の象徴として受け継がれてきたという事実とは、分けて考えることができます。この記事でも、その線引きを大切にします。
皇位継承との関係
では、三種の神器は、皇位継承とどう関わるのでしょうか。ここが、この記事の中心です。
三種の神器は、皇位を継ぐしるし(象徴)として扱われてきました。新しい天皇が位を継ぐとき、その神器を受け継ぐことが、皇位継承と深く結びついているのです。
これが、現在の制度では「剣璽等承継の儀(けんじとうしょうけいのぎ)」という儀式に表れています。天皇が即位されると、この儀式で、剣と璽(じ=勾玉)が、国璽・御璽(国や天皇の公式な印)とともに、新しい天皇へと承継されます。令和の代替わりでは、2019年5月1日に行われました。
なお、この儀式で承継されるのは「剣」と「璽(勾玉)」です。鏡は動かさず、宮中に祀られたままとされます。剣璽等承継の儀の位置づけや、即位礼との違いは、このあとの記事で詳しく扱います。
法律は、神器をどう扱っているか
三種の神器は、法律にも出てきます。ただし、その書き方が独特です。
皇位とともに伝わるべき由緒ある物は、皇位とともに、皇嗣が、これを受ける。 ――皇室経済法 第7条
読んでいただくと分かるとおり、条文は「それが何であるか」を、いっさい書いていません。鏡とも剣とも勾玉とも書かない。真偽も問わない。ただ「皇位とともに伝わる」ということだけを定めています。
この条文により、三種の神器は「由緒ある物」として扱われ、相続税もかかりません(相続税法第12条第1項第1号)。国の法律ですら、神器を「中身を確かめるべき物」ではなく「受け継がれてきた事実」として扱っている、と読むことができます。

三種の神器は、現在どこにあるのか
三種の神器は、いまどこにあるのでしょうか。一般に伝えられている内容を整理します。
- 八咫鏡(鏡) ―― 本体は伊勢神宮に祀られ、その分身とされる形代(かたしろ)が皇居の宮中に祀られているとされます。
- 草薙剣(剣) ―― 本体は熱田神宮(名古屋)に祀られ、形代が宮中にあるとされます。
- 八尺瓊勾玉(勾玉) ―― 皇居の宮中にあるとされます。
「形代」とは、本体とは別に、そのしるしとして祀られるもののことです。ただし、これらの詳細は、宮内庁や各神社が公表している範囲を超えて、断定できるものではありません。ここでは「一般にこう伝えられている」という形で紹介するにとどめます。
なぜ、誰も見ることができないのか
三種の神器は、一般に公開されることがありません。それどころか、天皇であっても、その姿を直接ご覧になることはないと伝えられています。
なぜでしょうか。それは、三種の神器が、単なる宝物ではなく、皇位継承の神聖な象徴として扱われてきたからです。人目にさらすものではない、という考え方が、長く受け継がれてきました。
「本物は存在するのか」「どのようなものなのか」といった疑問が語られることもあります。しかし、公にされていない以上、ここで憶測を書くことはしません。確かなのは、それが長く皇位の象徴として大切に受け継がれてきた、という事実です。
よくある誤解
誤解されやすい点を、整理しておきます。
- 「三種の神器は国宝なのか」 ―― 一般の美術品のように指定・公開されるものとは、性格が異なります。
- 「三つとも皇居にあるのか」 ―― 先に見たとおり、鏡は伊勢神宮、剣は熱田神宮に本体があるとされ、すべてが皇居にあるわけではありません。
- 「本物かどうか証明されているのか」 ―― 公開されていないため、そうした議論に確たる答えはありません。
筆者の考え
ここからは、筆者の考えです。
筆者は、三種の神器は単なる宝物ではなく、日本という国の歴史と皇位継承を象徴する存在だと思います。
その起源は日本神話にあります。けれど、少なくとも、歴代の天皇の即位とともに受け継がれてきたという歴史そのものには、大きな意味があると感じます。
「本物かどうか」という議論に目が向きがちですが、それ以上に重要なのは、長い年月にわたり、皇位継承の象徴として大切に受け継がれてきたという事実ではないでしょうか。筆者は、その歴史と伝統こそが、三種の神器の最大の価値であると考えています。
まとめ
- 三種の神器は、八咫鏡・草薙剣・八尺瓊勾玉の三つ。鏡・剣・勾玉を指す。
- 由来は日本神話(天孫降臨)。ただし神話であり、歴史的事実とは区別して考える。
- 皇位継承の象徴として受け継がれ、即位では「剣璽等承継の儀」で承継される。承継されるのは剣と璽で、鏡は動かさない。
- 🔴 皇室経済法第7条は「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」とだけ定め、それが何であるかを書いていない。 法律も、中身ではなく受け継がれてきた事実のほうを扱っている。
- 一般に公開されず、鏡は伊勢神宮、剣は熱田神宮に本体があるとされる。
- 保管や真偽については、公表されている範囲を超えて断定しない。
三種の神器を知ることは、皇位継承の本質を知ることにもつながります。
参考・出典
- 皇室経済法(昭和22年法律第4号)|e-Gov法令検索 ―― 第7条「皇位とともに伝わるべき由緒ある物」
- 相続税法(昭和25年法律第73号)|e-Gov法令検索 ―― 第12条第1項第1号(由緒ある物は非課税)
- 剣璽等承継の儀のお写真|宮内庁
参考書籍
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