2026-08-07

連載「皇室の基礎知識第5回(全12回)

皇族費・内廷費・宮廷費の違い

皇族費・内廷費・宮廷費の違い ―― 皇室のお金の仕組み

前回の「皇室経済法とは何か」では、皇室のお金が3種類に分かれることに触れました。「内廷費」「皇族費」「宮廷費」の3つです。

名前は聞いたことがあっても、その違いを説明できる人は多くありません。今回は、この3つを一つずつ整理します。連載「皇室の基礎知識」の第5回です。


皇室費は、3種類ある

まず、全体像です。皇室のお金(皇室費)は、次の3つに分かれます。

  • 内廷費(ないていひ) ―― 天皇・皇后両陛下や、内廷の皇族方の日常の費用
  • 皇族費(こうぞくひ) ―― 各宮家の皇族方に支出される費用
  • 宮廷費(きゅうていひ) ―― 儀式や公的な活動、皇居の管理などにあてられる費用

この3つは、対象も、使い道も、性格も違います。順番に見ていきましょう。


内廷費とは

内廷費は、天皇・皇后両陛下と、内廷(ないてい)の皇族方にあてられる費用です。内廷の皇族とは、天皇と生計を共にされる、いわば「ご一家」にあたる方々を指します。

使い道は、日常の費用や、私的な活動などです。大切なのは、この内廷費が、「御手元金(おてもときん)」として扱われる点です。つまり、宮内庁が管理する公金ではなく、皇室の私的なお金として支出されます。

内廷費は、法律で年額(定額)が定められています。この金額を変えるときには、前回触れた皇室経済会議での審議が必要になります。


皇族費とは

皇族費は、各宮家の皇族方に支出される費用です。内廷の皇族以外の、宮家を営む皇族方が対象になります。

皇族費は、皇族としての品位を保つために支出されるもので、一定の定額を基準に、お立場(親王・親王妃・内親王など)に応じて算出されます。こちらも、内廷費と同じく御手元金、つまり私的なお金として扱われます。

内廷費との違いは、対象です。内廷費が天皇・皇后両陛下と内廷の皇族方にあてられるのに対し、皇族費は各宮家の皇族方にあてられます。


宮廷費とは

3つのなかで、一番誤解されやすいのが宮廷費です。

宮廷費は、日常の生活費ではありません。おもに、次のような公的な活動にあてられます。

  • 宮中祭祀(さいし)
  • 国賓の接遇 ―― 外国の元首や賓客をもてなす
  • 外交儀礼
  • 儀式 ―― 即位に関わる儀式など
  • 皇居の維持・管理

宮廷費は、宮内庁が経理する公金です。私的な御手元金である内廷費・皇族費とは、性格がはっきり違います。

金額の差は、はっきりしています。令和8年度の予算で、内廷費は3億2,400万円、皇族費は総額2億5,529万円。これに対して宮廷費は120億392万円です。皇室費のうち、9割以上を宮廷費が占めていることになります。その多くは、皇室が「国を代表する活動」を担うための費用なのです。


3つの違いを、表で整理する

ここまでを、比較表にまとめます。

項目 内廷費 皇族費 宮廷費
対象 天皇・皇后両陛下と内廷の皇族方 各宮家の皇族方 皇室全体の公的な活動
主な用途 日常の費用・私的な活動 各宮家の日常・品位の保持 儀式・国賓接遇・皇居管理など
性格 御手元金(私的) 御手元金(私的) 公金(宮内庁が経理)
令和8年度 3億2,400万円 総額 2億5,529万円
(定額 3,050万円)
120億392万円

内廷費・皇族費・宮廷費 ―― 対象・用途・性格

こうして並べると、「私的なお金(内廷費・皇族費)」と「公的な費用(宮廷費)」という、大きな線引きが見えてきます。


「皇室費=生活費」は本当か

ここが、この記事で一番伝えたいことです。

「皇室費」と聞くと、そのすべてが皇族の生活費のように思われがちです。しかし、これは正確ではありません。

  • 宮廷費は、生活費ではありません。儀式、国賓の接遇、皇居の管理など、公的な活動を支える費用です。
  • 皇室費のなかで大きな割合を占めるのは、この宮廷費です。
  • したがって、「皇室費=皇族の生活費」というイメージは、実態とずれています。

皇室費の多くは、日本という国の活動を支えるためのお金である。この点を押さえることが、皇室のお金を正しく理解する鍵になります。


海外の王室と比べると

皇室のお金を考えるとき、海外の王室と比べたくなることがあります。イギリス、オランダ、スウェーデンなど、王室を持つ国はいくつもあります。

ただし、ここには注意が必要です。予算の制度も、王室が担う公務の内容も、国ごとに大きく違います。たとえば、王室の費用のまかない方や、公開されている数字の範囲は、国によってさまざまです。ですから、金額だけを単純に並べて「多い・少ない」を論じても、あまり意味がありません。

そのうえで、制度の違いを踏まえた見方として、日本の皇族方は、各国の王室と比べても慎ましいと評価されることが少なくない、という点は紹介しておきたいと思います。豪華絢爛(けんらん)とは、少し違う姿がそこにあります。


筆者の考え

ここからは、筆者の考えです。

筆者は、皇室費については、金額だけが一人歩きし、本来の使い道まで知られていないことが多いと感じています。

内廷費・皇族費・宮廷費は、それぞれ役割が異なり、その多くは、公務や宮中祭祀、国賓の接遇など、日本を代表する活動を支えるために使われています。海外の王室と比べても、皇族方が豪華な暮らしをしているわけではなく、むしろ慎ましいと評価されることもあります。

もちろん、各国で制度や公務の内容が異なるため、単純な比較はできません。けれど、「税金で生活している」というイメージだけで判断するのではなく、その予算が何のために使われているのかまで知ることが大切ではないでしょうか。

とりわけ皇族費については、年額の数字だけを見ても、実態は分かりません。

皇室経済法は、皇族費を「皇族としての品位保持の資に充てるために」支出する費用と定めています(第6条)。使い道が自由な所得ではなく、その立場を保つための費用だ、という位置づけです。そして、そこから出ていくものは決して少なくありません。

たとえば、宮家には私的に雇っている職員がいます。宮内庁の職員である宮務官とは別に、家事などを担う人たちです。

いわゆる宮家職員につきましては、これは国家公務員ではなくて、各宮家において雇用されている私的な使用人という位置づけになろうかと思います。実際には各宮家によっていろいろ違いはございますが、平均すると五人程度の宮家職員が雇われておりまして、家事等のお手伝いを行っているように承知いたしております。 ――1996年3月25日 衆議院内閣委員会 宮内庁次長

その人件費も、皇族費から出ていくことになります。

装いも同じです。人前に立つ機会が多い以上、貧相な身なりというわけにはいきません。

そして決定的なのは、足りないからといって働いて補うことができないという点です。一般の勤め人であれば、収入を増やす道も、暮らしを切り詰めて質素にする道もあります。皇族方には、そのどちらも開かれていません。金額の大きさだけを見て「恵まれている」と判断するのは、実態からは遠いと筆者は感じます。

筆者は、皇室費を、皇族個人のためのお金としてではなく、日本の皇室という制度を維持し、その役割を果たしていただくための公的な費用として理解したいと考えています。


まとめ

  • 皇室費は内廷費・皇族費・宮廷費の3種類に分かれ、それぞれ目的が異なる。
  • 内廷費は天皇・皇后両陛下と内廷の皇族方、皇族費は各宮家の皇族方への費用(ともに私的な御手元金)。
  • 宮廷費は儀式・国賓接遇・皇居管理などの公的費用(宮内庁が経理する公金)で、金額も最も大きい。
  • 「皇室費=生活費」というイメージは正確ではない。多くは国を代表する活動を支える費用。
  • 海外王室との比較は、制度や公務の違いを踏まえる必要がある。

数字だけではなく、その使い道まで知ること。それが、制度を正しく理解する第一歩です。


参考・出典