2026-08-22

秋篠宮殿下は皇室典範改正に反対したのか ―― 8月13日の記者会見を読む
2026年8月13日、秋篠宮皇嗣同妃両殿下が、パラグアイご訪問を前に記者会見に臨まれました。
その中で、2026年に成立した改正皇室典範について問われた殿下が、「いろいろと思うところは、もちろんあります」と述べられた――。この部分が大きく取り上げられ、こんな受け止めが広がりました。
秋篠宮殿下は、皇室典範の改正に反対しているのではないか。
そう感じた方も、少なくないと思います。けれど、ここで立ち止まりたいのです。殿下は「反対」と述べられたのでしょうか。
宮内庁が公表している会見の記録を、順番に確認していきます。
実際の発言を確認する
まず、事実の確認からです。
この会見は、令和8年(2026年)8月13日、赤坂東邸で行われました。8月18日から26日までのパラグアイご訪問(日本人移住90周年)に際しての会見です。
皇室典範について問われたのは、問2でした。質問は、こういうものです。
去年、佳子さまがブラジルを訪問され、今年5月に悠仁さまが初めて宮中晩餐会に出席されました。国際親善を担われる若い皇族方への期待を御紹介ください。一方、国会で成立した改正皇室典範は、若い皇族方の人生に大きく影響を与えることが見込まれます。これまでの議論を含めた受け止めや、御両親として佳子さまや悠仁さまにどのように歩んでいってほしいとお考えかお聞かせください。 ――記者会見(令和8年8月13日)問2
これに対する、殿下のご回答です。
皇室典範等の一部を改正する法律が成立したことは承知しております。国会において議論がなされた上で成立したものと受け止めております。この間、報道等でもいろいろその皇室典範についてのことが掲載されていて、私自身もいろいろと考えるところはありましたし、先般、天皇陛下が話されたことをもっともだと、そのとおりだと私は思っています ――秋篠宮皇嗣殿下 記者会見(令和8年8月13日)
そして、続けてこう述べられました。
ただ、ここでそのことについて何かお話しするというのは、制度に関わることでありますので控えたいと思います ――秋篠宮皇嗣殿下 記者会見(令和8年8月13日)
まず、この二つを並べて読んでおきたいと思います。
「思うところがある」は、確かに述べられている
会見では、このあとに関連質問がありました。記者から、かなり長い問いが投げかけられます。要点はこうです。
皇室の方々がそれぞれの人生に関わる制度設計について、どのようなお気持ちであったかとか、どのような境遇に置かれているかっていうのは、日頃から国民に広く伝わっていくことが重要だと思いますけれども、殿下はそういった皇室の方々の御意向の表明とか、皇室の方々が置かれている立場についての説明っていうのは、現状のままでよろしいとお考えなんですかね。 ――記者会見(令和8年8月13日)関連質問
これに対する、殿下のご回答です。
2年ぐらい前でしょうか。娘たちの話だったでしょうか。女性皇族の話だったのかな。それぞれ生身の人間っていうお話をしました。私も生身の人間なんですよね。ですから、いろいろと思うところは、もちろんあります。無かったらおかしいと私は思いますけども。ただ、それをどうやって発信することができるか、それから伝えていくことができるか、さらにそれが法律ともし関わってきた場合どうするか、その辺の関係というのは非常に難しいと思います ――秋篠宮皇嗣殿下 記者会見(令和8年8月13日)
ここは、はっきりさせておきます。
「私も生身の人間なんですよね」も、「いろいろと思うところは、もちろんあります」も、殿下ご自身の言葉です。 宮内庁が公表している記録に、そのとおり残っています。
しかも殿下は、「無かったらおかしいと私は思いますけども」とまで述べておられます。思うところがない、とは一言もおっしゃっていない。むしろ、あって当然だ、と明言されているのです。
ですから、この記事は「殿下には考えがない」と言うためのものではありません。そこは、出発点として押さえておきます。
しかし、「改正に反対」とは述べられていない
そのうえで、会見の記録を通して読むと、もう一つの事実が見えてきます。
「反対」という言葉が、どこにも出てこないのです。
- 「皇室典範の改正に反対」
- 「今回の改正には賛成できない」
- 「女性皇族が皇族として残ることに反対」
- 「旧宮家の男系男子を養子に迎える案に反対」
こうした言い方は、会見のどこにもありません。改正の中身について、賛成とも反対とも、殿下は述べておられません。
むしろ、法律そのものについて殿下が述べられたのは、次の一文でした。
皇室典範等の一部を改正する法律が成立したことは承知しております。国会において議論がなされた上で成立したものと受け止めております。
「国会において議論がなされた上で成立したものと受け止めております」。これは、成立という結果を受け止める、という趣旨の言葉です。
ここで重要なのは、二つのことが同時に成り立っているという点です。
- 思うところは、もちろんある(ご本人の明言)
- しかし、改正への賛否は述べていない(記録上の事実)
この二つは、矛盾しません。「考えがある」ことと、「その考えを制度への賛否として公に表明する」ことは、別のことだからです。

「制度に関わることでありますので控えたい」
その「別のこと」を、殿下ご自身が言葉にしておられます。
ただ、ここでそのことについて何かお話しするというのは、制度に関わることでありますので控えたいと思います
つまり、話さない理由が、はっきり述べられているわけです。考えがないから話さないのではない。制度に関わることだから、この場では控える、と。
関連質問への回答の後半も、同じことを、より率直に語っています。
ただ、それをどうやって発信することができるか、それから伝えていくことができるか、さらにそれが法律ともし関わってきた場合どうするか、その辺の関係というのは非常に難しいと思います
「それが法律ともし関わってきた場合どうするか」。ここに、殿下が置かれている立場の難しさが、そのまま表れているように思います。
なぜ、そこまで慎重になるのでしょうか。背景には、憲法の定めがあります。
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。 ――日本国憲法 第4条第1項
国事行為の記事でも見たとおり、天皇は国政に関する権能を持ちません。皇室典範の改正は、国会が決める立法の事柄です。天皇や皇族が、その賛否を公の場で表明することは、きわめて慎重に扱われてきました。
ただし、ここは正確に書いておきます。皇族の発言が、法律によって全面的に禁じられているわけではありません。 憲法第4条が定めているのは、天皇の権能についてです。天皇と皇族は、制度上、同じ立場ではありません。
それでも、殿下ご自身が「制度に関わることでありますので控えたい」と述べられた。慣行として、また立場への配慮として、そうしておられる――記録から言えるのは、そこまでです。
天皇陛下も「反対」とは述べていない
ここで、殿下の言葉に戻ります。
先般、天皇陛下が話されたことをもっともだと、そのとおりだと私は思っています
「先般、天皇陛下が話されたこと」。これが何を指すのかを確かめなければ、この一文の意味は分かりません。
さかのぼると、令和8年(2026年)6月11日、天皇陛下がオランダ・ベルギーご訪問を前に記者会見に臨まれています。皇族数の確保をめぐる議論について問われた陛下は、こう述べられました。
制度に関わる事項については、私から言及することは控えたいと思いますが、皇室の在り方や活動の基本は、国民の幸福を常に願い、国民と苦楽を共にすることだと考えており、こうした皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります。 ――天皇陛下 記者会見(令和8年6月11日)
読んでいただければ分かるとおり、ここにも「反対」という言葉はありません。陛下が述べられたのは、次の二つです。
- 制度に関わる事項については、言及を控える
- 議論が、国民の理解が得られるものとなることを望む
さて、そうすると、秋篠宮殿下が「もっともだ、その通りだ」と述べられた対象は、何だったのでしょうか。
「制度への言及は控える」という姿勢と、「国民の理解が得られるものとなってほしい」という願いです。
ここが、この記事の一番大事なところだと思います。同意された中身そのものが、「反対」ではないのです。

では、なぜ「反対」という話になるのか
事実の確認は、ここまでです。ここからは、なぜそう受け止められたのかを整理します。
おそらく、次のような道すじをたどっています。
- 秋篠宮殿下が「いろいろと思うところは、もちろんあります」と述べられた
- 「先般、天皇陛下が話されたことをもっともだ」とも述べられた
- 改正が成立した直後に、わざわざ「思うところがある」と言うからには、肯定的な内容ではないのではないか
- だとすれば、お二方とも改正に否定的なのではないか
ご覧のとおり、1と2は会見の記録にある発言です。3から先が、読み手による推測です。
3の推測が成り立つかどうかは、誰にも分かりません。「思うところ」の中身は語られていないからです。それは、改正の内容についてかもしれませんし、報道のあり方についてかもしれません。議論の進め方についてかもしれない。ご家族の将来についてかもしれません。
語られていないものを、語られたことにはできない。 ここは、動かせない一線だと思います。
なお、記者の質問そのものにも、目を向けておきたいところです。関連質問は、「皇室の方々のお気持ちや御意向が国民に伝わっていない」という記者の問題意識を長く述べたうえで、「現状のままでよろしいとお考えなんですかね」と問うものでした。
この問いは、制度の賛否ではなく、「殿下ご自身のお気持ち」を語る方向に、論点を置いているようにも読めます。 「生身の人間」という言葉が出てきたのは、この問いへの答えとしてでした。改正の賛否を問われて出た言葉ではない、という点は、押さえておいてよいと思います。
問いを立てた側も、こう言っている
もう一つ、会見の記録を読んでいて目にとまった箇所があります。同じ関連質問の、前半部分です。
今回の議論を見ていますと、そういった皇室の方々が置かれた境遇とか、お気持ちとかそういったものが議題としてですね、明確に示されたというのは、ちょっと国民は感じられなかったと思っています ――記者会見(令和8年8月13日)関連質問
当事者の境遇や気持ちが、議論の場に十分示されたとは感じられなかった。 そう述べているのは、批判する側ではありません。質問した記者自身です。
殿下は、この見立てを否定されませんでした。返ってきたのが、あの言葉です。「それをどうやって発信することができるか、それから伝えていくことができるか……その辺の関係というのは非常に難しいと思います」。
ここに、この問題のもう一つの顔があります。
制度を決めるのは国会です。けれど、その制度によって人生が変わるのは、皇族の方々です。 決める場に、当事者の席はありません。意見を述べる筋道も、事実上、用意されていない。
だからこそ、残された数少ない言葉が、実際以上の重みで読まれてしまうのだと思います。「思うところがある」という一言が、これほど大きく取り上げられたこと自体が、当事者が語る機会の乏しさを、裏側から映しているのではないでしょうか。
これまでの記事とのつながり
このサイトでは、皇室典範とは何かから始めて、なぜ改正が必要とされたのか、2026年の改正で何が変わったのかを、一つずつ見てきました。
そのなかで繰り返し確かめてきたのは、皇室典範は国会が決める法律であり、皇室の側が決めるものではない、ということでした。皇族数の減少という現実も、女性皇族が結婚後も皇室に残る案も、議論の場は国会でした。
今回の会見は、その構図を、別の角度から照らしています。当事者でありながら、制度の決定には関与しない立場。秋篠宮殿下の「制度に関わることでありますので控えたいと思います」という一言は、その位置を、そのまま言い表しているように思います。
天皇は政治を語らないのかという記事でも見たように、この抑制は、長い時間をかけて形づくられてきたものです。
筆者の考え
ここからは、筆者の考えです。
今回の会見をめぐって、筆者が感じたのは、二つの誤りが、どちらも起こりうるということでした。
一つは、「反対している」と決めてしまうことです。殿下は賛否を述べておられません。天皇陛下も述べておられません。語られていない中身に、第三者が自分の読みを入れて「反対だ」と断じることは、ご本人が言った以上のことを言わせてしまうことになります。しかも殿下は、その読みが違っていたとしても、「そうではない」と公に訂正できる立場にはありません。 制度に関わることは控える、とご自身で述べておられるとおりです。反論の手立てを持たない相手について、語られていない考えを推し量って断じることには、やはり慎重でありたいと思います。
もう一つは、逆の方向の誤りです。「何も思っていない」ことにしてしまうこと。これも違います。殿下は「いろいろと思うところは、もちろんあります。無かったらおかしいと私は思いますけども」と、はっきり述べられました。この言葉を、なかったことにはできません。
思うところは、ある。けれど、賛否は語られていない。 記録から言えるのは、この二つだけです。そして、その二つのあいだにある空白は、埋めずに置いておくよりほかにありません。
筆者は、この空白こそが、今の皇室が置かれた立場を、一番よく表しているように思います。殿下の言葉を借りれば、「それをどうやって発信することができるか……その辺の関係というのは非常に難しい」。当事者であることと、制度の決定に関わらないこと。その二つを同時に生きる難しさが、あの短い受け答えに、にじんでいたのではないでしょうか。
だからこそ、受け取る側としては、ご本人が言ったこと以上にも、以下にも読まない。それが、いま示せる最低限の敬意なのだと、筆者は考えています。
まとめ
- 「いろいろと思うところは、もちろんあります」は、実際のご発言。宮内庁の公表記録にある。
- 「私も生身の人間なんですよね」も、実際のご発言。「無かったらおかしい」とも述べられている。
- 🔴 ただし、会見に「皇室典範改正に反対」という趣旨のご発言はない。改正の中身への賛否は語られていない。
- 法律については「国会において議論がなされた上で成立したものと受け止めております」と述べられた。
- 話さない理由も明示されている ――「制度に関わることでありますので控えたいと思います」。
- 🔴 天皇陛下(2026年6月11日)も「反対」とは述べていない。「制度に関わる事項については、私から言及することは控えたい」「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」。
- 秋篠宮殿下が「もっともだ、その通りだ」と同意されたのは、この「言及を控える」姿勢と「国民の理解を望む」という願いであって、改正への反対ではない。
- 「思うところがある」から「だから反対」までのあいだにあるのは、第三者の解釈である。
発言と解釈を分ける。今回の会見については、それに尽きるのだと思います。
参考・出典
- 秋篠宮皇嗣同妃両殿下記者会見(パラグアイご訪問に際し・令和8年8月13日、赤坂東邸)|宮内庁 ―― 問2および関連質問への御回答。本記事の引用はすべてこの記録による
- 天皇陛下記者会見(オランダ及びベルギーご訪問に際し・令和8年6月11日)|宮内庁 ―― 問3への御回答「制度に関わる事項については、私から言及することは控えたい」「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」
- 日本国憲法 第4条|e-Gov法令検索 ―― 第1項「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。」



